個展を通してさまざまな表現にアプローチする
~イラストレーター げみさんインタビュー~

FEATURE
Edit by Shiritaikun
「乙女の本棚」シリーズ(立東舎)の『檸檬』や『蜜柑』などのイラストのほか、さまざまな媒体で活躍する人気イラストレーターのげみさん。
先日The Artcomplex Center of Tokyo(新宿区)で開催された個展「うつつの底で」にて、個展開催10年目の変化や今後の展望などについてお話をお伺いしました。
<げみ>
兵庫県出身、東京在住。
京都造形芸術大学美術工芸学科日本画コース卒業後、イラストレーターとしてさまざまな媒体で活躍。

個展がきっかけで生まれた「イラストレーターズ・ウィーク」

―こちらのThe Artcomplex Center of Tokyoで10年間個展をされていますが、このギャラリーで個展を続けるようになったきっかけをお聞かせください。

もともと作家の大槻香奈さんが企画展をしていて、それに呼んでいただいて展示したのがこのギャラリーとの最初の出会いですね。その後、上京することになった時に作品数も揃ってきたので「個展どうですか?」という感じで始めたのが1回目になります。

『うたかた』

―途中から現在の「イラストレーターズ・ウィーク」に変わったかと思うのですが、こちらもお声がけがあったのでしょうか?

「イラストレーターズ・ウィーク」は個展を始めてから3年目くらいですね。
ここのギャラリーが構造上、部屋がいくつもあり、部屋ごとに貸しギャラリーになってるんです。僕がここでイラストレーターとして展示している間、隣は写真だったり、現代アートだったり、学生のグループ展だったりすることがあって、観に来た人が「あ、イラストか」という反応をされることがありまして。

―ジャンルが違いますもんね。

ジャンルが違うと絵を観るモチベーションというか、目的も違うじゃないですか。それが僕的にはあんまり良くないなと思い、隣が違う展示ではなく全部の部屋をイラストレーターにして、イラストを観に来る習慣として何か出来ないだろうかとギャラリーに相談しました。そうしたやりとりを経て、友達や妻、あとは、これからイラストレーターとして食べていきたいけれど企業とのつながり方や展示の方法が分からない若い作家さんと一緒に全体を使えたら良いんじゃないかということで、僕主催のギャラリー企画として「イラストレーターズ・ウィーク」をここで開催させていただくようになりました。

―そうだったんですね!実は先ほど「イラストレーターズ・ウィーク」の合同本『四季窓々』を買ったんですけど、奥付を見た時にげみさんの連絡先が書いてあったので今謎が解けました。

一応主催として僕から声かけをしています。

―つながりのあるイラストレーターさんなどにお声がけしたのでしょうか?

初めて声をかけるイラストレーターさんもいましたね。参加している田中寛崇さんは友達ですし、けーしんは僕の妻なので、ここら辺は内輪で「展示毎年やろうよ」という感じにしつつ、そのほかに展示をあんまりしたことがない作家さんたちに声をかけました。メンバーは1回変わったりしてるんですけど、「一緒にどうですか?」と声をかけて「ぜひ!」って言ってくれた方たちと一緒にやっています。

アクリルフォトからUV印刷へ

『探偵と猫』アップ。UV印刷によるテクスチャー感が触りたくなります!

―個展10年目ということで、ご自身の中で最初の個展から大きく変わったことはありましたか?

今回作品の印刷方法が変わったぐらいで、続けていることはあんまり変わってないですね。

―印刷方法が変わったということで、これまでのアクリルフォトからUV印刷に変えられたそうですね。実際展示を観て回った時に、線とか、凹凸とかすごいテクスチャー感があって驚きました。印刷するにあたって印刷会社の方と「ここはこういう表現で」みたいなやり取りはされたのでしょうか?

そうですね。僕はもともと京都造形芸術大学の日本画を卒業していて、日本画の岩絵具で描いたり、アクリルでキャンバスに描いたりと、アナログで絵を描いていたこともあり、絵の具で描いた時の質感が分かるというか、イメージ出来るんですね。それを活かして、「こういう質感に見えるようにしたい」という要素をデジタル上で工夫して絵作りしていました。そういった質感を再現したいと印刷所の方に伝えて、どういうアプローチ、媒体で刷れば展示する形に出来るかを相談しながら進めました。凹凸の表現自体は、僕が印刷用のデータを作っています。

―すごいですね!

明暗に合わせて凹凸のデータを作っているんですけど、ここでもアナログの経験が活かされています。例えば、絵の具で描いた場合、色が重なるほど明度や彩度が低くなり、絵全体を引き締めるために入れるハイライト部分は白を乗せるので明度が高くなります。こうした知識を活かして、明るい部分は凸面、暗い部分は凹面になるようなデータを作って印刷で再現しています。

『色の降る日』

―もともとやられていた日本画などの技術や知識があったからこそ、こういったデータが作れたんですね。

はい、「この色の置き方なら明暗はこういうふうになる」というところを逆算してデータを作っています。絵を完成させてからその上のレイヤーに印刷用のデータを追加しています。

―実際出来上がったものを見た時はどうでしたか?

結構感動しましたね。
自分がデジタル上で再現しているざらざら感はフェイクというか、デジタル上でそう見えているだけなんですよね。これまで展示をする時に、例えば和紙に印刷して展示したこともあったんですけど、紙のテクスチャーが絵を邪魔してしまうこともあり、そういった質感の紙に印刷するのは僕の作品ではあんまり向いてないなと思いました。その点、アクリルフォトはつるつるしているので、ディスプレイで見ている状態と同じ感覚で絵が見れるんですよ。僕が意図しているざらっとした表現を細部まで見てもらえるサイズで展示したいと思い、B2サイズの光沢紙に印刷し、疑似モニターを作るような形で対応していました。それが10年経つうちに印刷技術もどんどん上がって、僕が求めていた日本画っぽいざらっとした質感をこうして印刷出来るようになったので、今回10周年を機に作品をそちらにアップデートしました。

『鳥のように君と』

―確かにおっしゃるとおり、げみさんの作品のざらつき感を素材感のある紙で印刷したものをイメージした時に、テクスチャー感が混ざっちゃうなと思いました。

やっぱり印刷物だなってなるところが、出力する意味を考えた時に自分はあんまり納得出来なかったんです。「どうしてこの出力方法で印刷したのか」を説明出来る状態にしないと展示出来ないって思っちゃうんですよ。例えば、ジークレーを批判している訳ではないんですけど、「みんなジークレーをやってるから、ジークレーにしよう」といったことは自分の表現スタイルとして展示方法を模索した時に合わないと思いまして。あとは、キャンバスの場合も目地が邪魔になるから自分の絵に合ってないなと感じていたので、そういった意味でも印刷の選択が出来るようになったのはすごい良かったなって感じてます。

個展を続けるモチベーション

―クライアントワークをたくさんやられている中で、10年間個展を続けることはなかなか大変だと思うのですが、どのように工夫されているのでしょうか?

常に「将来どういう作家でありたいか」というビジョンを見据えているので、来年の個展のこともすでに考え始めています。「あれやるかな、こういうアプローチでやるかな」といったことをいくつか考えていて、あとはそれを仕事の合間に形にしていく作業を意識してやっています。

―個展の時期から逆算して1年くらい前から考えているということで、制作自体も早い段階から始められているのでしょうか?

制作自体は半年前ぐらいからが多いですかね。そろそろやばいなみたいな(笑)。自分の場合は、個展のテーマを文字に起こして、その時にタイトルも考えています。そのタイトルに合った絵を考えてから他の作品を作っていきます。なので、メインビジュアルの『うつつの底で』を考えたのが最初で、あとはそれに合わせて、あの作品にひっぱってもらって、そのコンセプトの中で考えて描いています。展示作品では、10年くらい前の絵のオマージュだったり、リメイクして描き直したり、 新たな実験としてこれから仕事に使いたい技術やイラストの構成要素といったアプローチを変えたりしています。それぞれの作品に役割があるので、それをイメージして描いてますね。

『うつつの底で』

― 1年前から個展をやるのを決めるっていうのを聞いて、改めてすごいと思いました…!

この展示の会期が終わる時に「来年どうします?」みたいな感じになるんで、ギャラリーを確保しないといけないっていうのもあり、もう続けるのが当たり前になってますね。

―個人的に仕事とかでも「これやりたいな」っていうアイディアはあるんですけど、実際にそういったことを実現するのってなかなか難しいと思うのですが…。

そうですね、スケジュールが押さえられてるからこそですかね。

―やるしかない的な?

やるしかないを10年やってる感じですね(笑)。「今年は一回休んじゃおうかな」って思うこともあるんですよ。仕事忙しいし、子供も大きくなってきて遊んだりで、休日は絵を描けないので。平日も限られた時間しか描けない中で「いつ描くんだよ」みたいな状態もあり、ここで止めちゃったら、もう止めちゃいそうだなみたいな怖さがあって、それで続けている感じですかね。結果10年になったんで、これはもう20年、30年やりたいっていう気持ちになってます。

―個人的に思い当たる部分があって、やっぱりどんなことでも途中で止めちゃうと、本当にそれっきりになってしまいますよね。もう一度やろうとしてもどんどん難しくなりますし…。

そうなんですよね、僕も個展を止めてしまうとオリジナルを描かなくなりそうな感じがするんです。そうすると新しい発見もアプローチもなくなり、クライアントに何も見せられない状態になってしまうので、それは良くないなと思っていて。作品数が少なくなる時もありますが、意地でも何かしら考えていることは形にしておきたいという気持ちでなんとか続けてます。

制作について

『みぎわに連れて』

―制作について、全体的にストーリー性のあるイラストを描かれている印象を受けていまして。先ほど描く内容を文章にするとおっしゃっていたと思うんですけど、制作される時にテーマやストーリーを決めてから描き始めるのか、もしくは描いてからストーリーが生まれてくるのか、どちらのパターンで制作されているのでしょうか?

どっちもありますね。個展のメインビジュアルと対になっている『みぎわに連れて』は、やっぱりコンセプトありきで考えているところが多いです。他の作品で言うと、車の絵は自分の車だし、僕自身車が好きだから描いていますね。
『うじきんとき』も伝えたい物語がっていうよりは、こういう構図の絵が描きたい、こういう構成要素の絵が描きたいというのがありました。
『滲む雨音に触れて』は雑誌『Illustration(玄光社)』のインタビューで依頼をもらって表紙を描く時に、何を表紙にするのが今の自分に一番合っているのかを考えて制作しました。なので、文章や物語のテーマから入るものもあるし、バラバラですね。

『うじきんとき』

―その時々で変わる感じでしょうか?

そうですね。絵を描くアプローチはいっぱいあったほうが良いなと思ってます。何がきっかけになるかはその時々で変わりますね。

―また、季節感のあるイラストが多いのですが、好きな季節やシチュエーションはありますか?

意外と自分夏好きなんだな、と最近思ってます。夏に展示しているからかもしれないですけど。夏だし、梅雨だしみたいなところが多いのが自分でも気になってはいます。

『滲む雨音に触れて』

―雨のイラストも多いですよね。

雨は自分の代名詞みたいなものなので、意地でも向き合おうというか(笑)。その息抜きが夏になってるのかな。「夏が好き!」とかではあんまりないんですけど、地平線が好きっていう感じですかね。構造物がない地平線というか、遠いところが絵として面で捉えやすいというか。例えば商店街を描くってなるとモチーフのオンパレードで、構造物の形を取ることに執着しちゃうので、あんまり絵を面で捉えられないんです。小さいものがわちゃわちゃある感じが僕はあんまり得意じゃないんですよね。それよりも、「この構造はこういうふうに描いたら良いよね」みたいなのが自分の中にあって。面を見やすいという意味では、『赤い夏』のように地平線の奥行きはあるんだけど、絵としては平面になるので、その平面として空をとらえた時のアプローチは雲を細かく描写することではなく、シルエットだけで雲や風の流れ、まぶしさを表現しようというアプローチが出来ています。デフォルメしやすいという意味で、遊びやすいモチーフだなと思ってます。自然物を広く扱うのが楽しいという感じですかね。

―この展示の中で、『赤い夏』だけ印象が違いますよね。

そうですね。これは実験的に描いています。絵のクオリティを上げようとすると、どうしても写真に近づいていく感覚があるんですよ。絵として捉えることを1回やっておかないと、写真に似たものを作りそうになるので、そうならないようにあえてラフさを表現するために描いている、写実ではなく絵の面白さに戻るための絵を描いています。

『赤い夏』

―10年個展をされていて、私生活での変化が絵に影響することはありますか?

だいぶありますね。例えば、2024年の個展は「家」がテーマなんですけど、あれは僕が家を建てたからなんです。家を建てる時に設計段階から自分の私生活の動線、どの時間をどこで過ごすかを考える時間がいっぱいあったんです。自分にとって家って何だろうというところから、何を大切に家を作ろうかっていうことを考えて作品を作りました。個展のタイトルを「光を招く場所」にしたんですけど、朝起きて光が入ってくる、なんというか「箱」のイメージが自分の頭の中で定着していて、どの時間でも光が楽しめるような家にしたいから窓の配置もこだわって、何時にどういう光が入ってきて、どこが照らされるのかみたいなことも考えながら作ったので、そういうタイトルにしました。

2022年の個展「思い出を辿る旅」の時は、当時コロナ禍でみんな旅行に行けなかったじゃないですか。なので、個展に来てくれた人に旅行へ行った気分になってもらいたくて「旅」をテーマにしました。僕が今まで行ったいろんな場所の写真や風景をベースにイラストを考えて、乗り物も電車や車、自転車、バスなどをモチーフにして、自分も含めてみんながどこか遠くに行きたくなるような個展にしました。 なので、結構自分の私生活、その時の生活と人生のステージとを照らし合わせて描くことが多いです。「家」をテーマにした個展は私生活にだいぶ直結してますね。

『光を招く場所』作品集

―ところで、クライアントワーク含めずっと制作されているかと思うのですが、作業される時は音楽とか聴かれたりしますか?

いや、友達と話してる時が多いかな。作業通話で最近の話題なんかを話しながら、黙々と作業してますね。

―音楽を聴いている方が多いイメージがあったので意外です。

僕は人が喋っているのを聞くほうが良いですね。ネットのニュース番組とか、だらだらしゃべってるようなYouTubeをただ流して。なんというか、耳の端っこで聞きながら絵を描いていることが多いです。

―映画とかを流したりはするんですか?

いや、映画は音もこだわって夜に見たいですね!やっぱり子供が生まれてから熱中する時間があんまり取れないんで、夜寝かしつけて、「よし!」みたいな感じでヘッドホンつけて見る、時間を濃密にしようという感じなので、あんまりながらでは物語を追わなくなりました。

―じゃあ映画を見るのがリフレッシュ方法のひとつでしょうか?

そうですね。映画見たり、YouTubeだらだら見たり、あとはマッサージ行ったり温泉行ったりとかでリフレッシュしてますね。

『見えなくなるほど』

―最後の質問ですが、今後予定されていることやチャレンジしてみたいことがあればお聞かせください。

いっぱいありますね。
AIが出てきて、イラストレーターの仕事は変わりそうだなと思っています。例えば、今後、僕らの下の世代、中学生や小学生は絶対にAIを使うと思うんですよ。それが大前提として、AIで何でも作れるとは言え、今のAIで作った絵を投稿している人を見ると、「ここが変だよね、これは危ないよね」っていう些細なことも守れていないことが多いんです。一方で、イラストレーターって描くことも大事なんですけど、1枚絵を描く時にモチーフの構造や成り立ち、文章の文脈や細部まで目を凝らして調べてるんですよ。調べている時間もかなり長くて、そうやって全部監修して描くのをプロはみんな当たり前にやっているんです。そういった意味で、イラストレーターとして今後監修に名前を貸すのもあるのかと思っています。将来、イラストレーターもAIを使うようになったと仮定した時に、監修力のほうが重要になってくるだろうなと思っています。
あとは、絵の具を使って実物一点ものを残すのに時間を充てる未来も10年後、20年後来るかもしれないので、絵の具で描いておきたい気持ちもあります。そういう未来が来た時に、次はどういうアプローチで備えようかなということを考えています。 どれが正解かはまだ分からないですし、自分の作品をこれからどうアップデートしていくのか、どういう技術をおり混ぜて選択してやっていくのかということや、手作業で出来ないこともやりたくなってくるので、やりたいことはたくさんありますね。

 

今回のインタビューを通して、げみさんの作品制作に対する考えやさまざまなアプローチ方法などを知ることが出来、改めて10年間個展を続けられているすごさを実感しました。
げみさん、この度はお忙しい中インタビューを受けてくださり、ありがとうございました!


【展示会情報※本展示会は終了しました※】
個展「うつつの底で」
会期:2026年7月3日(金)~7月12日(日)
会場:The Artcomplex Center of Tokyo ACT 5(東京都新宿区大京町12-9, 2F)

[Informtion]
●げみ
http://gemi333.com

・X:https://x.com/gemi333
・Instagram:https://www.instagram.com/gemi333/
・pixiv:https://www.pixiv.net/users/396769

●The Artcomplex Center of Tokyo
https://www.gallerycomplex.com/

・X:https://x.com/gallerycomplex
・Instagram:https://www.instagram.com/artcomplex_center_of_tokyo/
・Facebook:https://www.facebook.com/gallerycomplex
・YouTube:https://www.youtube.com/user/ArtcomplexCenter

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