~「バッハ:無伴奏チェロ組曲」への挑戦~
鬼才チェリスト、ジョヴァンニ・ソッリマ氏インタビュー

FEATURE
Interviewer Akimitsu Sawano, Translate Kyoko Maruyama Edit by Shiritaikun
日本公演のため来日したイタリアの世界的チェリスト、ジョヴァンニ・ソッリマさんに最新アルバムや「100チェロ・プロジェクト」などについてお話をお伺いしました。
ジョヴァンニ・ソッリマ<Giovanni Sollima>
1962年イタリア・シチリア州パレルモ出身。世界最高峰のチェロ奏者兼作曲家。音楽一家に生まれる。特に作曲家兼ピアニストであった父エリオドロ・ソッリマの影響で、幅広い音楽性を身につけた。パレルモ音楽院を優秀な成績で史上最年少で卒業。シュトゥットガルト音楽大学とモーツァルテウム音楽大学で、チェロをアントニオ・ヤニグロに、作曲をミルコ・ケレメンに師事する。
世界的名指揮者リッカルド・ムーティから最大の敬愛を受け、多くの公演で作曲家、ソリストとして起用される。これまでにリッカルド・ムーティをはじめ、マルタ・アルゲリッチ(ピアニスト)、クラウディオ・アバド(指揮者)、ティグラン・マンスリアン(作曲家)、ステファノ・ボラーニ(ピアニスト)、ペーター・シュタイン(ドイツのオペラ・演劇監督)など数多くの巨匠と共演し、絶賛される。ヨーヨー・マをはじめ、マリオ・ブルネロ、ミーシャ・マイスキーや2チェロズ、NYではフィリップ・グラス、パティ・スミス(シンガー・詩人)らとも共演。2012年には、エンリコ・メロッツィと100人のチェリストを集めた「100チェロ」活動を開始。2019年には日本で初開催し大きな話題となる。2023年4月に無伴奏チェロによる全国6箇所で初の日本ツアーを行い、大成功を収めた。2025年春の来日では無伴奏チェロ・コンサートをはじめ、読売日本交響楽団との共演、「100チェロ」公演を大阪で敢行し大きな反響を呼んだ。

―昨年2024年末に発売された、最新アルバム「バッハ:無伴奏チェロ組曲と様々なチェロ作品」のコンセプトを教えてください。

コロナ禍のイタリア、夜間外出禁止令下での生活が続く中、私はチェリストなら誰しもが一度は挑戦したいと思う「バッハ:無伴奏チェロ組曲」の全曲録音に取り組むことを思い立ちました。そして、録音するなら作品のディテールまで踏み込んで徹底的に研究しようと、アンナ・マグダレーナの写譜まで遡って調べました。色々と調べる中、この曲の本来の魅力を分かってもらうには、もっとこの曲を多角的にとらえる必要があると思うようになりました。そこで、通常ですと2枚組として収録されることが多いのですが、私はあえて1枚加えた3枚組で録音することにしました。アルバムの1枚目と2枚目には「バッハ:無伴奏チェロ組曲(全曲)」、3枚目にはバッハがこの無伴奏チェロ組曲を作曲するにあたり影響を受けた曲や、逆にこの曲が影響を与えた曲を収録しました。それは私にとっておおよそ300年にわたる長い音楽の旅をするようなものでした。旅は、ドメニコ・ガッリやニコロ・サンギナッツォといったイタリアのチェリストや作曲家から始まり、バッハと同時期に活躍した作曲家を経て現代へと続きます。そこには、私自身の曲をはじめバッハから大きな影響を受けたロックバンド、ジェネシスのスティーヴ・ハケットも含まれています。このように、バッハが当時から今に至るまで作曲家として今のアーティストにどのような影響を与えたのかを考え、それを語る物語としてアルバムを作りました。

―「バッハ:無伴奏チェロ組曲と様々なチェロ作品」でピッコロ・チェロ(5弦チェロ)を使用した理由はなんですか?

そもそもバッハは無伴奏チェロ組曲第6番をピッコロ・チェロ用に作曲しました。そのようなこともあり、今回、私はオリジナルを忠実に再現したいとの思いから作曲当時の楽器であるピッコロ・チェロを使用しました。ピッコロ・チェロについて少し説明すると、この楽器は通常のチェロより一回り小さいサイズで、現在のヴィオラとチェロの丁度中間のような大きさです。また、通常のチェロは4弦ですが、ピッコロ・チェロは1弦多いことによりとても表現力豊かな音色を奏でることができます。それは、天使のような可愛らしい音を出したかと思えば、人間的な温かみを感じさせる深い音も出せます。このように通常のチェロと比べるととても魅力的な音を出せるのです。ピッコロ・チェロはバロック時代にイングリッシュ・チェロと呼ばれており、イタリアの作曲家ヴィヴァルディはこの楽器が好きだったようで、イングリッシュ・チェロのために多くの作品を残しました。先にもお話したとおり、バッハもこの楽器に魅了されて組曲の第6番はこの楽器のために書いております。このように、私にとって「バッハ:無伴奏チェロ組曲」を演奏するにはこのピッコロ・チェロなくして成立しませんでした。

―ソッリマさんはイタリアのチェロの巨匠アントニオ・ヤニグロ氏に師事されていましたが、思い出に残ったことや逸話はありますか?

彼からは多くのことを学びました。いや、いまだに学んでいるのかもしれません…。彼はとても深い人でした。「ジョヴァンニ!キャリアを追っかけるだけでなく、人生の美しさを感じることを忘れるな!自由に生きることの大切さを知れ!!」とよく言われました。
そのように彼は、チェロだけなく美味しいものを食べたり、旅行したり、友達と遊んだりと、とてもシンプルでありながらも、生きることの尊さをよく語ってくれました。今思えば、それが自分の音楽の源泉になっているのかも知れません。
本当にとても人間的な方で、私の人生にとってかけがえのない恩師です。

―ソッリマさんは作曲家と演奏家の二刀流で活躍されていますが、各々の活動をするにあたってマインドの切り替えなどはありますか?

私にとって演奏することと、作曲することにそれほど大きな違いはありません。心理的なプロセスは、非常によく似通っているからです。ただ、自分が書いた曲でも、演奏に取り組む時は一旦他人が書いた曲かのようにとらえ、違う視点から見ることはあります。そうすることで新たな解釈が生まれることもあり、それはとても刺激的なことです。また、演奏している時に即興的な演奏が湧き上がることがあります。このように自分にとって、作曲も演奏も音楽という大きなフィールドでは常に表裏一体で意識して切り替えることはありません。

―チェリスト100人が集うコンサート「100チェロ」という活動されていますが、活動の目的について教えてください。

もともとは18世紀に建てられたローマの由緒あるヴァッレ劇場が閉鎖されることに反対し、劇場を守るためにその創造エネルギーを高める企画として、友人のエンリコ・メロッツィと共に2012年に立ち上げたプロジェクトが始まりです。ヴァッレ劇場はその後3年間に渡りヨーロッパ中の演劇、音楽、舞踊のアーティストたちと占拠し演目を創造し続けました。

そのような中、私はSNSを通じてチェリストの仲間たちに演奏を呼びかけたところ、プロ/アマ、老若男女関係なく多くの仲間が楽器を持って集まってくれました。そして、私たちは三日三晩演奏をしました。それがとても評判となり、今ではその活動はアート・カルチャーの「神話」となっています。その後、劇場も見事復活を成し遂げたこともあり、「100チェロ・プロジェクト」を発展させ、イタリア国内をはじめブダペストやミラノ、マドリッド、ドバイなど多くの場所で展開し、下は子どもから上は80代まで、プロ/アマ、ジャンル、国籍を問わず「世界を垣根なく音楽で繋ぐ」場として開かれたトポスを作り上げています。日本での「100チェロ」は2019年にすみだトリフォニーホールでの初開催から今回で3回目ですが、参加するチェリストも観客の方も年々多くなっており、とても熱狂的なイベントになってきました。今後もこの自由の象徴である「100チェロ」の活動を通じて音楽の可能性に挑戦していきたいと思います。

2025年3月26日(水)無伴奏チェロ・コンサート(写真提供:㈱プランクトン/撮影:石田昌隆)

―誰もが平和な世界を願っていますが、昨今、世界では悲しい出来事が日々起こっております。そのような中、ミュージシャン、音楽の役割とはどのようにお考えですか?

音楽に出来ることはそんなに多くないかもしれませんが、音楽の持っている力は限りないと思います。それは言葉で何かを言うよりももっと直接的に語りかけるメッセージとして届けることが出来ると思っています。音楽には、人々を1つにする力があると思います。例えば、戦争をしているウクライナの人もロシアの人も自国の民謡を聴けば実はメロディーは同じと気付くはずです。
それだけ音楽には平和を生み出す可能性があると思います。決して、音楽は形あるものではなく、流動的なものです。だからこそ音楽家は独りの世界に籠るのではなく世界で起きていることと常にふれあいながら、自分の考えやメッセージを語る勇気を忘れてはいけないし、その中に身をおくべきだと思います。私は、それくらい強い思いを持って音楽家をやっています。

―最後に日本のファンの皆様に一言メッセージをお願いします。

好奇心を忘れないでください。
それが全ての源です。
創造性とインスピレーション、創造性とインスピレーション、創造性とインスピレーション…そして愛です。

 

ソッリマさん、お忙しい中インタビューありがとうございました!


 

【最新アルバム】J. S. バッハ:無伴奏チェロ組曲全曲、他(3CD)

ジョヴァンニ・ソッリマ(ピッコロ・チェロ)
(品番:BRL96390, BRILLIANT CLASSICS)

来日公演でもおなじみの型破りなチェロ奏者、ジョヴァンニ・ソッリマがバッハの無伴奏チェロ組曲をレコーディング。コロナ禍のイタリア、夜間外出禁止令下での生活が続く中、ソッリマは無伴奏チェロ組曲とその周辺をじっくり研究することができたといい、その成果となったのがこの2021年3月に収録された3枚組CDです。CD3にはバッハの無伴奏チェロ組曲についてさらに多角的に捉えられるよう他の作曲家の作品も収録しています。
  ブックレット(英語・12ページ)にはソッリマ本人による各曲の解説のほか、写真も多数掲載。

今回特別に最新アルバムのブックレットにサインをいただきました!

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[Information]
●Giovanni Sollima公式サイト
https://www.giovannisollima.com/

●YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCHa62N0Gquq-zXSlvCcsYmQ

●Instagram
https://www.instagram.com/giovanni_sollima/

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