Billboard Japan チャート創設者に聞く、これからのミュージック・エンターテインメント【前編】
Billboard Japan Hot 100は「多様化している音楽の楽しみ方」を表現するために複数の指標を組み合わせてランキングを発表し、時にその指標を見直すなど常にユーザー目線でチャートの最適化を模索し続けている。今回はそのチャートの生みの親である阪神コンテンツリンクの礒崎誠二氏にインタビュー。我々が同社と関わるきっかけとなったビルボードライブの創業時のことから、Billboard Japan Hot 100はどのようにして生まれたのか?今後の音楽業界、ビルボードの展望は?チャート創設者とともにこれからのミュージック・エンターテインメントについて話を聞いた。
東京外国語大学スペイン語学科卒。92年キティ・エンタープライズ入社、同年クラブチッタ川崎に出向。06年阪神コンテンツリンク入社後、ビルボードジャパンのブランディングを担当し、ビルボードライブのマーケティングに従事する傍ら、ジャパンチャートの創設・事業展開を主導。
ビルボードライブ創設からこれまでの変遷・変化
―早速ですが、2007年のビルボードライブ東京のオープンから2022年で15周年のアニバーサリーイヤーでした。まずは立ち上げから今日までいろいろなことがあったと思います。これまでを振り返って率直な感想をお伺いできたらと思います。
礒崎さん:ビルボードのライセンス契約は2006年8月末にアメリカと締結できました。そこからキックオフということで、2007年8月にビルボードライブを開業する流れで準備していました。私は2006年5月、正式には7月に阪神コンテンツリンクにジョインすることになっておりまして、入社時に「ライブ事業の売上に関してはある程度読めるけれども、ビルボードの他の商標を使ったビジネスはどういったことが考えられるか事業計画を考えてほしい」というお題をいただきました。これはもしかして就職試験の続きなんだろうかと考えてしまったため頑張って作ってしまったんですが、別にテストではなかったということを後で知りました。それなのに『礒崎くんこれだけなの?もっと売れるんじゃないの?』っていうふうに評価されて、逆に自分の首を絞めていくということになりました(笑)。それがもうそのまま採用されて事業計画としてたたき台になっていったっていう感じですね。
―(笑) その2007年から15年間、あっという間だったかもしれませんが、簡単な15年ではなかったと思います。記憶するところでは震災や今ではコロナ禍のこともありますけれども、ライブレストランの運営をはじめて、これでイケる、軌道に乗ったと思った時期、もしくは中々これは難しいなっていう時期ってどんなときでしたでしょうか?
礒崎さん:初めて2007年からスタートして、初年度のタイミングで2008年2月にBillboard JAPANチャートをローンチするんですけど、実は私はそちらの方に関わっていたんですよ。2009年4月からビルボードライブ東京の方のマーケティングを見てくれっていう形で。ジャパンチャートはローンチしたから大丈夫だろうっていう。つまりそこでビルボードライブのマーケティング担当に変わったという形になりました。が、ビルボードライブ東京はオープンしたんですが、なかなか集客に苦労している時期が3年ぐらい続き、僕らが考えているお客様というのをうまくリーチさせていくには非常に苦労したのが正直なところです。僕らが実際呼びたいところでも、まず最初に3年ぐらいのめどで、ビルボードの洋楽のイメージということを考えて外タレのみという過酷なブッキングをしていったんですよ。
―過酷なブッキング(笑) なるほど左様でしたか。確かに過酷かもしれない、、
礒崎さん:はい。洋楽ファンにリーチさせていくって、ご存知の通り洋楽のファンはどんどんシュリンクしている状況もあり、なかなかライブに足を運んでいただくことが非常に難しかったという状況があります。そこで七転八倒しながら、うまく軌道に乗り始めたなと思ったのは、2010年ぐらいです。そんな矢先で震災。震災を受けて未だに印象深かったのは、計画停電ですね。自粛ムードの高まりの中で営業を続けるのはどういうことだ、って。そんな空気を受けて僕らはビルボードライブ東京の営業自粛をしていくんですけれども、大阪本社との間には温度差がありました。この状況に対して大阪は「東京なんかすごいことになってるね」って。ビルボードライブ東京は1日のランニングコストがものすごくかかるんですね。そんな状況なので、なおさらそこを営業しない、再開させないでずっと止めておく状況が逆に大阪にはわからない。その状況を理解してもらいながらとりあえず自粛をしていきました。
そんななかで4月の半ばにようやく再開したとき、嬉しそうなお客様の表情を見ることができたのは一番良かったです。それこそコロナで不要不急的な扱いをされてしまうエンターテインメントなんですけど、それを待ってくださっているお客様だったり、ビルボードライブでライブを見たいと考えておられる方々というのは非常に増えてきたんだな、っていう実感を得たことはすごく良い経験だったなと思います。
―実際、出勤もままならない状況で少なからず混乱もありましたが、震災の翌日から御社のスタッフさんと色々やり取りさせてもらったことをすごく覚えています。さきほどオープン当時、海外のアーティストでブッキングを詰め込んでいたということだったんですけど、国内のアーティスト最初にブッキングされたのはたしか…
礒崎さん:井上陽水。で、その次に細野晴臣さんです。オープンのこけら落としはSteely Danでした。Steely Danは、知り合いのミュージシャンがSteely Danが普通にお客様で入場頂いたのですが(笑)、こんな近くで見れるのに食事なんかできる訳ないと言われました。逆にあの距離でもリラックス食べられる、というぐらいこのライブレストランと言う楽しみ方が15年を経て定着していったっていうのはすごく良かったかなと思います。
錚々たる顔ぶれの出演アーティスト。セレクションとブッキング
―至近距離で一流アーティストのライブを見ながら食事やドリンクも楽しめる、会場に行けばそういった非日常を体験できる、まさにビルボードライブの醍醐味だと思います。
差し支えなければブッキングするアーティストの選び方や、また苦労した点などあればお伺いできますか?
礒崎さん:ブッキングのスタッフとこの興行はお客様が入る、入らないとかいろいろなやり取りをしながら最初の頃やってたんですけど、もうさすがにある程度予測できるようになりました。僕らは、顧客単価である程度の金額の目安を作っていて、つまり入場料単価でいわゆる興行原価をカバーしつつ、それで飲食単価のところで飲食原価をカバーするっていう計算方法です。入場料単価と飲食単価を合わせて、顧客1人あたりの単価の目安を設定するんですね。そこで飲食単価もある程度ちゃんと売り上げが読めていないといけない。僕らの価格設定のところに見合うところでのお客様を呼ぶとなると、おのずと40代の男性・女性をコアターゲットとしながらブッキングを進めていかなければならない、というのが基本線でした。
―そうすると、当時はその時点の40代をコアターゲットにしていて、この15年の間にそこのお客様も15歳年を取られているわけで。時を経て、その時々で自ずとブッキングするアーティストも変わっていく、ということですか?
礒崎さん:その通りです。40代をコアターゲットとしていたんですけれども、その当時の来場されるお客様はどう見ても30代がメインでした。まずそこで僕らのターゲッティングにズレがあった。一方で、ビルボードライブ大阪は前にブルーノート大阪をやっていたという関係上、もう既にターゲットとして40代・50代の既存顧客を抱えていたので、そことバランスを取りながらをブッキングをしていけば、まず収益が読めるんです。そこを東京とどういう形で揃えていくのかっていう、揃えて良いもの、揃えるのを諦めるアーティストというところをいろいろ分けながらやってきました。
1年前にビルボードライブ横浜を開業しましたけれども、現状まさに同じ状況です。つまり客層が割と若めなんです。そこが東京と大阪とまた違うというところになります。となると、極端な言い方をすれば現状、50代が東京のコアターゲットになっていて、60代がビルボードライブ大阪のターゲットになっていて、横浜が30代。そしてここで大きなズレが出てくる。同時に30代のお客様、つまり60代のお客様からこのまま70代というふうに大阪がいったとしても、絶対既存顧客はシュリンクしていくに違いない。そうすると、若返りを果たさなければならない。とすると、横浜で人を呼べているんだったら大阪でも呼べるように若い人にリーチさせるような空気を作っていかなければならない…といったようなことが現状のタスクとして考えられるかなと。
―その空気を作っていく、醸造していく、その働き自体がマーケティングやプロモーションみたいな部分だと思うんですけど、何か具体的に取り組んでいること、取り組んできたことはありますか?
礒崎さん:まず、僕らはお客様が呼べないことには話にならないっていうところからスタートしてどういったことができるだろうかと考えました。原点に返ってビルボードって音楽メディアブランドだよねって考えるようにしました。ビルボードに来場されるお客様は音楽について語りたいお客様が多いはず。語りたいお客様とのお話のタネになるような話題をどんどんビルボードライブのウェブサイトで提供していくと。と同時にそういう余地を作っていきながら、どこにリーチしていくのかっていうのをどんどん実験していこうっていうことで、結論としては港区、渋谷区、世田谷区とかが、まずはメインターゲットになっていったっていう感じですね。
―地域ごと、エリアごとでターゲティングしリーチしていったということですね。
礒崎さん:はい。これもライブハウスが、通常のコンサートホールとかと明らかに違うのはライブハウスって地元に根差すんですね。だから、僕らのアンケート結果から言うと、港区六本木にあるんだったら、やっぱり港区に住んでらっしゃる方々が一番来場されるんですよ。なので、その周りに住んでらっしゃる方々にちゃんとリーチできるような草の根プロモーションをやっていました。エリアごとだったらそれこそ、千代田線の吊り広告といったようなプロモーションも展開していました。
―当社は、ビルボードライブ開業当初からCDの会場即売をお手伝いさせていただいています。誰もが知っているような世界のトップスターやアーティストがライブをし、新譜のリリースや会場でサイン会があればかなり多くの方がCDをお買い求めになる。一方で、既発の旧譜をお買い求めになる方もいらっしゃる。やはり傾向的にお客様の年齢や、世代も関係するのかなと思っています。会場でCDを購入されるお客様はどういった方が多いのか、礒崎さんからみていかかでしょうか?
礒崎さん:ビルボードのジャパンチャートのお話をさせていただくと、複数の指標を使った総合ソングチャートっていうのを作ってメディアに載せていただくといったようなビジネスなんですけど、もう一つのチャート事業としては、そのデータを解析して、マーケティングのソリューションを提供するっていうデータビジネスをやっているんですね。それが「CHART insight(チャート・インサイト)」っていうビジネスです。そのビジネスで僕らがわかっているのは、いわゆるライブとかに来場するコアファンの人たちは「所有」する傾向が非常に強いということなんです。だからビルボードライブというところに来場するお客様も、おそらくパッケージ、フィジカルを購入するという傾向は結構強いであろうと内心考えてはいます。とはいえ、アナログとか珍しいものを売っていただいた方がいいんじゃないかなって正直思っていますけれども(笑)
ーありがとうございます(笑)参考にさせてもらいます!
阪神コンテンツリンク 東京支店
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礒崎 誠二
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