“喫茶店の思い出”から生まれた飲食店
「ドリア&グラタン なつめ」

FEATURE
Interviewer Yushi Ibuki and Kazuma Hirota edit by Shiritaikun
出版社ナツメ社が手がける飲食店 “ドリア&グラタン なつめ”
その1号店「代々木八幡店」のオープンから、現在の3店舗展開に至るまでの経緯を、同社代表取締役専務の田村様にお話を伺いました。
<株式会社ナツメ社>
1953年創業。
“小さな好奇心の種が、未来に実を結ぶ”をモットーに、実用書、資格書、語学書、看護書、保育書等、幅広いジャンルの出版物を刊行。

<ドリア&グラタン なつめ>
特製ホワイトソースとチーズで作るドリア&グラタン専門店。
代々木八幡本店・新宿マルイアネックス店・たまプラーザテラス店の3店舗を展開。

自分の中の飲食の集大成

―御社は幅広いジャンルの書籍を出している出版社ですが、どういった経緯で食のビジネスに進出を決めたのでしょうか?

気になりますよね(笑)。僕自身19歳の時から飲食業をずっとやってたんです。19から喫茶店の店長をやっていて、自分で言うのもなんですけど、一番若い時に真剣にがむしゃらにやっていた時期があって。10年くらいやってたんですよ。

―そうだったんですか!

うん。僕自身は飲食業をやるつもりでいたんですけど、たまたま出版業を見てくんないかということで。元々出版の飲食事業部としてはやってたんですけど、現場には立てなくなっちゃったんですよ。まあ、飲食業やってたんで、自分が全力でやっていたものをなくしちゃうのは寂しいじゃないですか。それで飲食店もやっているというだけなんですけどね。
フランチャイズのカフェとかもやったんですけど、面白くないし儲からないしで(笑)。なんか人と違うことがしたいなって。で、僕は喫茶店やってたんで、幅広い年代を入れたいんですよね。だから喫茶店の延長で何か商売したいなっていうのがあって。老若男女、色んなお客さんが入ってくれればそれなりにいけるというか。その時に何をメインにすればいいのかなんですよね、ただ真似するのは嫌なんで(笑)。自分が経験してきた喫茶店で昔ドリアとかグラタンを出してたよな、あれはおじいちゃんも若い女の子も食べてたなって。ホワイトソースは子供もお年寄りも好きだよな、あれを全面に出せばいけちゃうんじゃないかって思っていて。ただ僕は現場に入らないんで、理想はなんとなく描いていたんですけど、現場に入ってくれる人間がいないとできなくて。5年くらいずっと考えてはいたんですけど。しばらくして信用できる人が来るってことになって。「こういうの考えてんだけど、やるか?」って聞いたらやるって言うんで、そっから作り上げていった、っていう流れですね。だから、あれがもう自分の中の飲食の集大成。あれでもしうまくいかなかったら、自分センスねえなって思ってたんで。いける確信はあったんですけどね(笑)。オペレーションとか雰囲気も全部色々考えてたんで、そういう流れでドリアとグラタンっていう。
簡単にいうと、自分がやってた飲食を続けるというか、出版業だけじゃなくて一軒ぐらいは持っていたいなっていう感じですね。なんで、そんなに深くはないというか(笑)。

―でも幅広い年齢層にっていうのはやっぱりすごいというか。

若い人だけを狙った商売っていうのは、それはそれでありかもしんないけど、幅広い年齢層のほうが楽しいだろうなと思って。僕がそうだったんで。喫茶店は老若男女来るじゃないですか。
だから地域に密着して、きれいごとですけど、お客様に愛される店を作りたいなっていう感じですね。

―ドリアとグラタンを選ばれた理由にも繋がりますね。

そう、ドリアとグラタンを選んでいるのはそういうことなんですよ。さっき言ったみたいに、世の中に出てるものをやるっていうのが本当に嫌なんで(笑)。真似したくないじゃないですか。

―おっしゃるとおり、ドリアとグラタンって結構珍しいと思いました。

誰もオペレーション作ってないと思うんですよね。あとは、チェーン店じゃないので自分たちで全部考えてやっているので。

―そこは大きいですよね。

最初は大変でしたよ。ネットで叩かれたりして。なんであんな店できたんだとか最悪とか、絶対すぐなくなるとか書かれて、逆にやる気になって(笑)。従業員には気にすんなって言いましたけどね。そんな簡単にはうまくいかないんで、やってくしかないんですよ。皆が理解してやり続ければ、何年かすれば大丈夫だろうっていうのは思っていたんで。ただ、最初はメニューもちゃんと確立していなかったから、レベルはちょっと低かったんですけどね。オープン当初手伝ったけど、思い出すだけで泣きたくなるくらいで(笑)。

 

地域密着というコンセプト

―本の街、神保町はいわゆるカレーや喫茶店など飲食にも縁の深い街ですよね。御社も神保町にあるということで、飲食店を立ち上げる時に神保町もやっぱり考えましたか?

神保町は全く考えてなかったというか、会社の近くでやるの逆に嫌ですよね(笑)。

―そういうのありますよね(笑)。

そうそう。あとは、この辺は学生街だったりオフィス街でしょ。神保町駅の辺りだったら少しはいいかもしれないけど、うちの辺りだと土日はちょっと来ないんじゃないですかね。

―確かに土日は結構閑散としてますよね。

そう、だから商売は難しいと思いますね。「ライスカレーまんてん」さんくらい有名になれば土曜日もできちゃうかもだけど、あそこまで有名になるのは本当に大変だと思いますよ。

―選ばなかったポイントとしてはやっぱりオフィス街っていうところもあるんですね。

うん。まあ、本社のビルも建ててからそんなに年数経ってないから、1階とかもやろうと思えばね。でも嫌ですよ、上の階に社員がいるなんて(笑)。考え方としては、完全に切り離してましたね。それに家賃だって普通に探せば高いと思いますよ。

―では、代々木八幡を選ばれたのは?

僕がグラタンの店のアイデアを温めていた時に、ちょうどそこが空いたんですよ。で、たまたまやる人間もいて、あそこでグラタンやったらうまくいくぞって言って、やった、そんな感じですね。

―そうだったんですね。そこからその街に合うお店作りのコンセプトとかも色々と考えられたんですか?

街に合うというか、もともと地域密着というコンセプトでいたので。僕は喫茶店の延長を作りたくて、家族連れでも、おじいちゃんおばあちゃんでも、誰でも入れるような店にしたかった。だから、今店に行って客層見て、若い子もいるし、おじいちゃんおばあちゃんもいるしで、最高だなって思ったんですよ。

―確かに、お客さんを選ぶような店構えはされてないですよね。なんというか、若い人だけっていうふうにもされていないなと。

そう、誰でもお気軽にどうぞっていう感じですね。

美味しいなって思えるものを食べてもらいたい

―先日、代々木八幡店のほうに行って、実際に食べてきたんです。実は私、グラタンやドリアが苦手なたちでして。ホワイトソースの脂っこい感じが苦手で、普段あまり食べてこなかったんですけど、今回実際に食べてみて、全くそういった感じがしなくて、すごく美味しくて。やっぱり食材や調理方法もこだわっているんでしょうか?

食べ物って10人いたら10人満足させることは絶対にできないんですよ。
チェーン店とかだと冷凍のものとかあって、こだわりがないから従業員も働いていて楽しくないんですよね。で、美味しくないとお客さんも満足できない。だから、うちは基本的にハンバーグや色んなものを手作りでやっています。手作りすることで美味しさは増しますよね。食べ比べしてもらったら、こっちの方が良いって言う人が7対3でいるかもしれない。ただ冷凍ものを出すだけだったら、ただの空間提供になっちゃうんですよ。それはつまらないでしょ?だから手作りして、美味しいなって思うものを食べてもらいたいという気持ちで仕込みはやっていますね。ホワイトソースも毎日手作りしてます。

―そうなんですね!だから一切レトルト臭さがなかったというか。個人的に友人とまた行きたいなと思えるような味でした。

だって、カレー屋さんがレトルト使ってたら嫌でしょ(笑)。ドリアとグラタンをうたってて、レトルト使ってるとかこだわりないじゃないですか。仕込みが大変ではあるけど、今のところそこは絶対外せないですよ。手作りした方が美味しいと思いますよってことです。

―その時は基本的にメニューにあるおすすめのトッピングで食べたんですけど、もしおすすめや好きなものがあれば教えてください。

これは、本当にお客さんの好きなもので選んでくださいっていうスタイルでやっているので、お客さんが選んでくれたら一番良いかなと、僕は思っています。例えば洋食屋さんでグラタン食べた時にもっとエビ入れたいなとか、ブロッコリーいらないなとかあるじゃないですか。自分の好みで追加出来たらより嬉しいし、楽しくなるんで、そういうところでやってますね。
一番売れているのはシーフードかな。シーフード出るからイカ墨もやってみないって言って出したりもして。あとはベジタブル系とかね。

―納豆とかお餅のトッピングとかも面白いですよね。

とことんミート

変わり種はね、ちょっとふざけて入れた(笑)。とことんミートとかも、ちょっと面白いの作んない?って言って、そんな簡単なノリなんですけど。チキン入れて、ハンバーグも入れちゃえって。値段とかも色々決めて、やっちゃおうぜってやって、意外に出ちゃったりして(笑)。

―私もそういうの好きですね。今度とことんミートを食べてみようかと(笑)。

あとはハヤシライスも人気ですね。当初ドリアとグラタンだけだとなかなか厳しかったから、なんか他にないかなって。カレーだと定番過ぎてつまんない、つまんない病が出ちゃうんですよ(笑)。
季節もので人気なのは牡蠣ですね。冬はもうずっとやってるんだけど。僕が牡蠣でドリアとかグラタンやったら絶対美味いと思って。牡蠣は炒めても縮まない、三陸産のを使ってます。居酒屋もやってるんで、ちゃんと豊洲から仕入れてます。あれを毎年楽しみにしているお客様もいるんで。
まあ、人それぞれ好きなものを食べるのが一番いいんじゃないですかね。そのために動機付けとして色んなメニューを載せていくっていうことで。あとはトッピングで自由にやってくださいって感じです。

ハヤシライス

―田村様は食にお詳しいので、メニュー開発でも色々と発言されているかと思うのですが、社内でも「こういうメニュー受けるんじゃないですか?」みたいな声もあるんですか?

そこまでかしこまってやってないです(笑)。チェーン店とかは役員とか色々会議してやってると思いますけど、うちは「こういうのできねぇ?」っていうレベルです。今は店長がそういうの考えるのがすごい好きなので、彼らがどんどん提案してやってくれてる。それまでは僕も「冷たいドリア作んねぇ?」とか言ってましたけど。今年はやるか分かんないけど、「冷やしドリア始めました」みたいな(笑)。冷やしドリアなんてどこもやってないでしょ?

―初めて聞きました(笑)。

そういうのをやるのが好きなんです。食べて意外に美味しいって言ってもらえたら、嬉しいじゃないですか。人が考えていないことをやるのがもともと好きで。だから周りがどうやってるとか、あんまり気にしてないです。自分で信念を持ってやっているだけなんで。
今はメニューを色々考えて、これやりたいって言われたらやればっていう感じ。こういう食材が合うよねっていうのは、だいたい分かるんで。だから、季節限定とかは年に4回くらいやってますよ。じゃないと、飽きちゃうんでね。やっぱり商売として取り入れていかないと。

 

出版社ならではの工夫

―代々木八幡店を訪れた時に、すごく居心地が良いなと感じまして、昭和レトロというか。その時に気になったのが、店内にキャラクターとかの置物があったんですけど、何か意図はあるんですか?

多分、子供が来るからそういうのを従業員が置いているんだと思います。もしそうだったら良いこと考えたなと。突拍子なことをやんない限りは、その辺は自由にやってもらってます。内装に関しては、僕、あんまりおしゃれなところが好きじゃないんで(笑)。落ち着かないというか。グラタン屋さんだから、なんかレンガ調みたいな、こういう感じでっていう案を出してもらって、作ってもらいました。コンセプト的にもちょっと昭和っぽいところは入れたいなと。

―御社は出版社ということで、代々木八幡店にも書棚に書籍が置かれていたんですけど、選書にこだわった部分はありますか?

特にこだわってはいません(笑)。うちは老若男女が来るので、お母さんとお子さんとかも来る可能性があるんですね。ちっちゃいうちは泣いちゃったり、走り回っちゃったりするでしょ。そういう時に本があったらいいかなと。うちは出版社で児童書も出してる、なんかねぇかなと思って、置いてる(笑)。だから大人の本はあんまり必要ないかなと。
たまに、この本すごく良いから欲しいんですけどって言って、買ってくれる人もいて。販売目的ではないんですけどね。

―御社は代々木八幡店と新宿のマルイアネックス店、たまプラーザテラス店の3店舗運営されていますが、いずれも街の雰囲気や客層も違うかなという印象があるんですけど、共通にしている点や違いを意識してる点はありますか?

マルイアネックス店に関しては、丸井さんから女性のお客さんが多いから、そういう女性を意識した内装にしてほしいという要望はあったので、それは少し意識しました。ただ、あんまりそっちに寄せちゃうと男の人が全く入れなくなっちゃうんで、誰でも入れるような内装にはしたつもりです。

―丸井様からご依頼があった感じなんですか?

はい。代々木八幡で2~3年やって、やっと軌道に乗り出したところで、僕がもう一店舗くらいやりたいなって言って、そろそろ物件探そうかっていう時に丸井さんから連絡があって。えぇ!一軒しかないのにうち!?って、詐欺じゃないのってうちのマネージャーと話したりして(笑)。どうもリーシングを担当した方が昔うちを利用したことがあったみたいで、それを思い出してくれて、丸井さんの施設に合うなってことで声が掛かったっていう。で、たまたまやりたい時期と重なってオープンに至りました。
チェーン店とか入れた方が簡単だし、安心だと思うんですけど。うちのを食べて評価してくれた、プロがそうやって声を掛けてくれたっていうのが、嬉しかったですね。

―流れ的にたまプラーザテラス店も同じ感じですか?

そのリーシング担当してくれた方が、違う会社だけどたまたまリーシング同士で話す機会があって、それで聞いてあげようかなって。たまプラーザだったら従業員もなんとかなるだろうだし、タイミングも合ってという感じですね。

―タイミングや横の繋がりとかもあったんですね!

これは今後の展望にも繋がってくるんですけど、今はなんとか運営できているし、広めたいんですよね。ただ、今の時代飲食で働きたい人っていないんですよ。場所にもよりますし。あと儲かんないし、無理してやるべきものではないんですよ。見返りがあればいいんですけど。僕は10年間全力でやった飲食業をやりたいからやっているだけで。自己満なんですけど、地域の人に喜んでもらったり、誕生日とか、家族で来てくれたりしたらなんか嬉しいな、沁みるなって思ったりするでしょ。そんな感じなんです。だから、普通の人はやるべきもんじゃないんですよ。他の施設さんからも実は色々お話が来てるんですけど、今の時代なかなかやりたくてもできないなって。これまでも従業員が頑張ってくれたからやれたんですよ。僕の理想があっても、従業員がそれに共感してくれないとここまで来れませんからね。
飲食で良いなっていうお店は応援してあげて欲しいんですよ。色々注文してあげたりしてね。

―応援って大事ですよね。”推し活”もそうですが、アーティストへの応援など全てのことにも繋がるのかなと思いました。また、今回のインタビュー中におっしゃられていた、信念を持ってやる、と対にもなっていると感じました。
田村様、本日はお忙しいところをありがとうございました。

[Information]
●ドリア&グラタン なつめ
URL : https://doriagratinnatsume.com/

代々木八幡本店
東京都渋谷区富ヶ谷1-53-2 レオマックビル1F

新宿マルイアネックス店
東京都新宿区新宿3-1-26 新宿マルイアネックス8F

たまプラーザテラス店
神奈川県横浜市青葉区美しが丘1-1-2 たまプラーザテラス3F

●株式会社ナツメ社
URL : https://www.natsume.co.jp/
X : https://x.com/natsumepub
Instagram : https://www.instagram.com/natsumepub/
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