“オタク”ならではの知識を生かして世界に“日本”を伝える
~粉川理沙先生インタビュー~

FEATURE
Edit by Shiritaikun

ドラマ『SHOGUN 将軍』について

―『SHOGUN 将軍』にどのように関わられたのかお聞かせください。

これまで何度かお仕事をご一緒した方から文化コンサルタントの依頼がありました。経験はなかったのですが、内容が「日米文化のチェック」ということだったので挑戦してみようと思い、『SHOGUN 将軍』のPR部門で文化コンサルタントとして関わる機会をいただきました。 お話をいただいたときは「私は具体的に何をするんだろう?」と思っていたのですが、実際にはこれまでやってきた通訳・翻訳・デザイン・オタク知識のすべてを総動員するような仕事でした。

―具体的にどのようなことをされたのでしょうか?

一番シンプルに言えば、「(一般の)日本人が見たときに文化的に失礼がないかをチェックする係」です。例えば、SNS用のティーザー画像で、登場人物の着物姿(首から下のみ)が使われていたのですが、元画像が反転されて掲載されていることに気づき、「先ほどの画像を取り下げてください」とストップをかけたことがありました。撮影時はもちろん監修が入っているため襟元は正しかったのですが、画像が外注のグラフィックデザイナーに渡る過程で、悪意のないミスが生まれてしまったのです。デザイン上のバランスで反転しただけで、それが文化的に失礼にあたるとは想像しにくいですよね。
そうした“誰も悪くないけれど起こり得るズレ”を未然に防ぐ、地道な確認作業が私の役割でした。
また、私はデザイン経験もあるので、PRイベントで使用されるビジュアルについても(勝手に)文化チェックをする際に意見も出してました。「この花のモチーフは作品の世界観に合いません」といった指摘ですね。美術というよりは、オタク知識の延長かもしれません(笑)。なぜか私たち、花言葉にやたら詳しいんですよ。そういうのもおこがましいかなと思いつつ、色々口出ししてたらそういう細かいところが気に入られましたね。
さらに、関連イベントに実際に足を運び、タレントの席配置について意見を求められることもありました。「日本には“上座”という考え方があるので、このお二人はこちらのお席の方がよいと思います」と提案すると、先方からは「セキュリティが二人付くのでその配置は難しい」といった現実的な理由が返ってくることもあり、調整は簡単ではありませんでした。
ロサンゼルスでのイベントですし、そこまで厳密にしなくてもよいのかもしれないけど!そんな気持ちがよぎることもありました。ただ同時に、「そうした配慮をするために私は呼ばれているんだよね」と自分に言い聞かせ、疑問に思ったことは必ず伝えるようにしていました。
こうした細やかな礼儀や序列への配慮は、カジュアル文化が主流のロサンゼルスではあまり重視されない視点でもあります。その文化的な温度差を体感できたこと自体、とても興味深い経験でした。
時代劇ならではの表現や、「辞世の句」といった日本独特の文化をどう説明するかも含めて、単なる言語の問題ではなく、“文化の翻訳”をする仕事だったと感じています。

―真田広之さんが主演だけでなくプロデュースにも関わられ、「日本人が見てもおかしくない日本を描こう」「誤解された日本を描く時代を終わらせたかった」と語られたように、キャスティング・脚本など細部にまでこだわられ、それを体現された、今後海外で日本を取り上げられる作品の礎となるような作品だったと思います。そのような作品に関わられたご感想を聞かせてください。

率直に、とても嬉しかったです。私は人生のほとんどをアメリカで過ごしてきたので、エンタメ作品に出てくる“なんちゃってジャパニーズ”にもある意味慣れていました。それはそれで一つの味だと受け止めながら育ってきた部分もあります。だからこそ、「日本人が見ても違和感のない日本を描く」という姿勢で制作された作品に関われたことは、感慨深いものがありました。真田広之さんについては、以前『ブレット・トレイン』(苦い感想は割愛)にも少し関わらせていただいたことがあり、その後さらに大きな形で世界に評価されていく姿を見て、勝手ながら誇らしい気持ちになっています。「世界はこうやって真田広之をプッシュするべきだ!」と心の中で叫びましたね。今回の作品は、今後海外で日本を描く際の一つの基準、礎になるのではないかと感じています。

―先生ご自身、これまで日本を取り上げられた作品で、真田広之さんのように作品に関わる中で違和感を覚えた経験や、海外制作に関わる中で感じた課題があれば教えてください。

『SHOGUN 将軍』に関しては、皆さん本当に細部まで配慮されていて、違和感を覚えることはほとんどありませんでした。やはり予算規模が大きい作品ほど、リサーチや監修にしっかり時間と費用をかけられる分、そのリスクは低くなるのではないかと感じています。
最近関わったHIKARI監督による『レンタル・ファミリー』でも大きな文化的ズレはありません。むしろ私が違和感を覚えるのは、デザイン面で「もっと日本っぽくしてほしい」という修正が入るときです。世界観に合っていれば良いのですが、時に“トゥーマッチ”になることがあります。
例えば『レンタル・ファミリー』は現代劇なのに、当初のCM案では「黒背景に赤い筆文字」といった演出が提案されていました。いわゆる“サムライ感”のあるビジュアルですね。でも作品は現代の物語ですから、「時代物ではないので、もっとモダンなデザインやフォントを使いましょう」と最初の段階で提案しました。
海外制作では、「わかりやすい日本らしさ」を求められることが少なくありません。その“記号化された日本”と、実際の日本とのバランスをどう取るか、そこが常に課題だと感じています。

―『SHOGUN 将軍』はエミー賞・ゴールデングローブ賞など、数々の賞をノミネート・受賞されましたが、現地での盛り上がりや、先生のご感想などぜひお聞かせください。

『SHOGUN 将軍』が受賞したときは、本当に盛り上がりました。私の周りには日系人を含めアジア系の友人が多いので、皆で喜びを分かち合いましたね。「やったね!」とたくさんメッセージももらいました。
特に印象的だったのは両親の反応です。私はいろいろな仕事をしているので、正直二人はあまり細かくは理解していないのですが(笑)、今回の受賞でようやく「おめでとう」と言ってもらえました。
現地で評価され、世界的な賞に名前が並ぶのを目の当たりにして、日本を丁寧に描こうとした作品がきちんと評価されたことが、とても嬉しかったです。

―全体的にシリアスなシーンの連続でしたが、その中でも、ミームとしても話題になった浅野忠信さん演じる藪重様や、穂志もえかさん演じる藤様が清涼剤的なポジションだったように思います。先生の「推し」キャラクターはいますか?

私は忠誠心の強い人物に惹かれるタイプなので、SHOGUNでは、虎長の息子・長門が特に印象に残っています。演じられた倉悠貴さんの、若さの中にあるしたたかさと覚悟が魅力的でした。
それから、西岡徳馬さん演じる広松も忘れられません。実はロサンゼルスのレッドカーペットで短い時間ながらもインタビュー通訳を担当した機会があり、そのときのご本人の人柄も含めて好きになりました。
これまでご一緒したタレントの方々も、仕事を通して好きになることが本当に多いんです(笑)。やはり、現場で真剣に向き合っている姿を見ると惹かれてしまいますよね。仕事に一生懸命な人は、それだけで魅力的です。なので私は、わりとすぐファンになってしまいます。

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