
“ニュートラルな目線”と“ブレる美学”
大阪FLAKE RECORDS 和田貴博さんインタビュー
大阪・南堀江のレコード/CDショップ「FLAKE RECORDS」。メジャー、インディーズを問わず、店長自らの直感とセンスでセレクトされたレコードやCDが所狭しと並ぶ。そのセレクションや店長の人柄に惹かれ、世界中の音楽ファン、ミュージシャンがお店を訪れる。2026年、オープン20周年を迎える
国内外の音楽ファンが訪れる大阪「FLAKE RECORDS」、20年の変遷

FLAKE RECORDSは来年で20周年ということで、これだけ続けてこられているのは本当にすごいことだと思います。この20年を経て、変化を感じることはありますか?
自分の興味が広がっているのはありますね。最近は普通にK-POPも聴くので、レコードが出るものは仕入れたりします。
聴く対象になる音楽の幅が広がっているということですね。僕の知るDAWAさんの原点はハードロックやメタルだったと思いますが、それは今も変わらずお好きですか?
はい。昔から好きなハードロックやメタルは変わらずあって、いろいろな音楽を好きになっているので、聴きたいものが増えているんです。ただ、ハードロックやメタル系のレコードはあまり売れないので、専門店に比べると弱いです。経験値としてはあるけれど、仕入れを我慢することもあります。
僕はFLAKE RECORDSに対して、おしゃれで最先端のインディーズを扱っているイメージから入ったので、DAWAさんのバックグラウンドにハードロックやメタルがあったと知った時は意外でした。
そもそも、昔のMTVで流れてたような、チャートの音楽を全部聴こうとしていました。レンタルレコード屋に入り浸っていたので、ハードロックもポップスもヒップホップも、全部並列に聴いていたんです。だから、ジャンルで音楽を捉える感覚はないですね。新しい音楽が楽しいと思えることが一番なんです。

とはいえ、好きな音楽を仕事にするのは大変な部分もありますよね。
仕入れはすごく難しいです。1枚でも100枚でも、熱量を持って紹介するのは同じやけど、どれくらい売れるかは表に出てこない。実はこのアーティストは枚数を減らしたり、とか、時代によって変わってきています。
今はむしろ新しいものとして受け入れられている感じ
変化といえば、最近のアナログブームの恩恵を感じられることはありますか?
新譜は大手レコードショップも参入しているので、値段で勝てない。だから流通してないものや直接仕入れるものを頑張らないと勝てないんです。旧譜は、常に紹介を続けているから動きやすいですね。
大手を含む業界全体がアナログ市場にフォーカスすることで、そうした影響もあるのですね。アナログブームに一役買ったシティポップのムーブメントですが、今の状況はどう見ていますか。
シティポップはちょっと落ち着いてきていますね。で、最近はジャパニーズ・ジャズやフュージョンが多いですね。カシオペアや高中正義がないか、めっちゃ聞かれます。
カシオペア!僕の若い頃は、フュージョン全般が結構ダサいって言われがちなジャンルだったと思うんですよ。好きなジャンルだったので肩身が狭い思いもしたものです(笑)。シティポップもそのくくりだったように思います。
でも、ちゃんと言ってくるから、探してはるんやなと。今はむしろ新しいものとして受け入れられている感じですよね。
店内のカセットコーナーも目に留まりました。FLAKE RECORDSでもカセットテープの取り扱いが増えているように感じますが、実際に手に取るお客さんは多いですか?
多分、売っている店が少ないからだと思います。でも、若い人たちも「カセットかわいいな」と思って買いに来てくれています。

ちなみに店内のPOPやサイトでのコメントなど、全てDAWAさんが書かれているんですよね。
そうです。メーカーのインフォは参考にして、自分の言葉で書くようにしています。後から更新していって、「これバイラルヒットしてますよ」とか、「CMで使われてましたよ」、とか。再入荷するたびに文字を変えたりして。それがめちゃくちゃ大事なんですよ。


都度、変えられているのは初めて知りました!今度、そこを意識してサイトのコメントをチェックしてみます。X(https://x.com/FLAKE_RECORDS)でも頻繁に投稿されていたり、そうしたところも含めて、良い意味でDAWAさんの色をお店のいたるところに感じます。
(店長が前に)出たくないですけど、出なきゃ、みたいな感じじゃないですか。とにかく僕が動いているのは全部お店を知ってもらうためなんです。DJやイベントへの参加も、お店を知ってもらうために動いています。
海外のお客さんや国内外のアーティスト、バンドが多く来店されるのも納得です。お店のInstagram(https://www.instagram.com/flakerecords/)などを拝見していますと、ミュージシャンの方でもリピーターが多い印象があります。
ただ遊びに来てくれるミュージシャンも多いですね。大阪は東京より「ついで」に寄ってくれて、ライブの入り時間まで時間があるから、みたいな感じで。来てくれてありがたいです。最近はTシャツを多く仕入れているので、それを目当てに来てくれる方もいます。ライブ物販より安く設定しているので、ヴィンテージTシャツは高いけど、うちのは安いから買ってくれるという感じです。


全部僕の感覚というか、ピンと来るか来ないかだけです
運営されているレーベル”FLAKE SOUNDS”についてもお聞かせください。作品をリリースされる際に大切にされていること、選定の決め手となるポイントはありますか?例えばCHAIもFLAKE SOUNDSから7インチをリリースされていましたが、この経緯や背景をお伺いできればと。
CHAIは”ボーイズ・セコ・メン”でハマって。その後に名古屋のレーベルと直でコンタクトして”ほったらかシリーズ”を仕入れて、メンバーもOTOTOYから出た最初の7インチ扱ってる時とかに来てくれました。
Suchmosも売れる前に気になってるとおっしゃっていました。その辺りのアンテナがすごいですよね。
仕事とはいえ紹介はたくさんしますから。でも家で音楽を聴く時間はなくなってきましたね。お店に毎日10時間くらいいるからお客さんのいない時に聴いたり。あと、ほぼ毎日ライブに行ってるので、それ終わってご飯食べて飲んで帰ったら聴くことはないです。前は通勤電車が1時間ぐらいだったのでその時は絶対聴いてました。今は自転車で5分ぐらいになっちゃったから聴く時間がない。

それでもお店やライブで十分聴く時間を確保されていらっしゃるように思います(笑)。今は日々膨大な新譜が出ているので、そこから売れる前のアーティストを探すのは大変だと思います。チェックする媒体は変化しましたか?
ストリーミングサービスのサジェストもチェックするけど、各メーカーのリリース情報と、海外の音楽ニュースサイトをむちゃくちゃ見ています。そうすると、今何が押されてるか、なんとなくわかるじゃないですか。いわゆる一般リスナーがSpotifyのプレイリストから聴くのとは全然違う聴き方だと思います。
確かに売る側・リスナーと立場が変わると聴き方も変わってくるのでしょうね。僕もプライベートで音楽制作をしていてとても興味深いお話しですが、実はFLAKEさんに作品を置かせていただいたり、以前所属したバンドでインストアライブをさせていただいたりと、大変お世話になっています。その少し前、自分のフィジカルの音源がなかった頃に、知人のバンドのCDがFLAKE RECORDSさんからリリースされたのが、すごく羨ましかった記憶があります。インディーズアーティストをリリースする際の決め手は何ですか?
全部僕の感覚というか、ピンと来るか来ないかだけです。これは長年の…自分の直感を信じないと無理なところで。正直、音源を持ってきてくれる人は昔めちゃくちゃいて断ることが多かったですね。でも、ピンとこないという判断だけで。例えば、昔断っていたけど、2年後に出会って「むちゃくちゃいいやん!」ってなるバンドもいるから。
一回で諦めちゃいけないということですね。
でも、別にそんなにこっちはすごい影響力があるとも思ってないし、ただ、ファーストでピンと来なくても、セカンドがいいと思ったら仕入れるし。明確な線引きではないですね。自分のモードでもあるし、「今こういう音楽がいいな」って思っているから。

それは最初におっしゃっていた「聴きたいものを仕入れている」という言葉にもリンクしますね。
そうです。広がっていったり。でも、当時「むちゃくちゃいいやん」って押してたけど、今聴くと全然良くないなと思うのもあるし。でも、それはそれで正解だったんです。僕は紹介してるだけっていう認識なんで。
この「ピンとくる」という言葉の中に、何か基準があるのですね。
経験値があるんだと、自分では思っています。老害になったらあかんと思うし、リバイバル系の音楽だったら、「俺はオリジナル知ってるから、オリジナルの方がいいな」とか思わないようにしたり。今のバンドが昔っぽい音やったら、「俺は当時を知ってるから」ってのを押し付けないようにしてますね。
現在のレーベルの傾向は如何でしょうか?
海外リリースのアーティストは最近できなくなっちゃって。売れないから。無名のバンドを日本でCD化して広めようとしてもまず売れない。以前は、ライセンス契約で国内盤の権利を取って、ボーナストラックを入れてCDにして、というビジネスもできましたが、今は難しい。
そうした背景もあって最近は日本のバンドがメインになっているのですね。
MASS OF THE FERMENTING DREGSとか、はここ10年ぐらい出させてもらって、僕はフィジカルだけ手伝って、配信とかマネジメントはバンドがやってますね。海外にツアー行くようになって、海外にレコードを卸すことができるようになったり、そういうのが出てきたから楽しいですね。YURAGI(揺らぎ)とか、んoonとかもそうです。

こうして振り返っても、ストリーミングの普及やアナログブーム、レーベル運営など、さまざまな変化のあった20年であったと思います。音楽を仕事として続けることについて、あるいは音楽の聴き方について、読者や若いミュージシャンの方へのメッセージはありますか?
あまり重く捉えなくていいと思います。僕はもうこの年なので、「いつまでできるかな」というのは日々考えています。でも、なるべくニュートラルな目線を保って、若い人たちとも普通に対等に遊びますし。日本は「ブレない美学」みたいなところがありますが、ブレた方がいいと僕は思います。当時と気持ちが違っても、その気持ちを経て、今思ってることの方が大事だと思いますし。

●FLAKE RECORDS
大阪市西区南堀江1-11-9 SONO四ツ橋ビル201
・URL : https://www.flakerecords.com/
・X : https://x.com/FLAKE_RECORDS
・Instagram : https://www.instagram.com/flakerecords/
●FLAKE SOUNDS
・URL : https://www.flakerecords.com/flakesounds.php
●レコード屋 (店主DAWAさん)
・X : https://x.com/DAWA_FLAKE
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