フォーレ四重奏団 インタビュー

FEATURE
Interviewer Akimitsu Sawano Translate Rieko Kuno Edit by Shiritaikun
日本公演のため来日したドイツのフォーレ四重奏団のメンバーに最新アルバムやコロナ禍以降初となる日本公演についてお話を伺いました。
<フォーレ四重奏団>
 1995年、フォーレ生誕150周年の年にドイツ・カールスルーエ音楽大学で4人は出会い結成された。2006年、名門ドイツ・グラモフォンと契約を結び、2009年にリリースした『ポップソングス』は聴衆や評論家から多くの支持を集め、翌年エコー・クラシック賞のクロスオーヴァー賞を受賞。また、同レーベルからの『ブラームス:ピアノ四重奏曲第1番&第3番』も、2008年エコー・クラシック賞の室内楽録音部門を受賞した。このほかにリリースした『モーツァルト:ピアノ四重奏曲第1番&第2番』、『メンデルスゾーン:ピアノ四重奏曲第2番&第3番』、『スヴェン・ヘルビッヒ:ポケット・シンフォニーズ』(クリスチャン・ヤルヴィ指揮/MDR交響楽団)も好評を博す。近年はベルリン・クラシックスより『展覧会の絵』『フォーレ・カルテット・プレイズ・フォーレ』をリリースして好評を博し、2024年2月には待望の新譜『アフター・アワーズ』をリリース。

―最新アルバム「After Hours」のコンセプトを教えてください。

グループ結成後、20年間レコーディング活動を行ってきましたが、今までは作曲家にフォーカスしたアルバムを作ってきました。しかし、今回のアルバムは今までと違い、コンサートのアンコールとして演奏した曲にフォーカスしました。また、私たちの長いキャリアの中で知り合った親友の作曲家リーヒマキ氏やフーベルト氏らが私たちフォーレ四重奏団のために書いてくれた大好きな曲もアルバムに収録しました。
アルバムのタイトルである「After Hours」とは、コンサートや毎日の仕事の後などの時間を意味します。私たちは毎年ドイツの音楽祭に出演しているのですが、そこではコンサートの後に観客を特別な場所に招待して、沢山のアンコール曲を演奏します。それはアーティストと観客の間に素晴らしいつながりを生み出し、特別な瞬間となります。今回は、その時の感動をアルバムという形にして残したかった思いもあります。また、演奏ではウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の首席クラリネット奏者マティアス・ショルン氏や、世界的な活躍をしているソプラノ歌手アネッテ・ダッシュ氏にも参加してもらいました。彼らも私たちの長いキャリアの中で知り合った素敵なアーティストたちです。今回、このように気心しれた仲間たちと一緒に1つのアルバムを作れたことを本当に嬉しく思います。新譜「After Hours」は、私たちにとってとても特別なアルバムで、全ての曲に思い出があり、それは私たち自身の歴史そのものと言っても過言ではありません。

コンスタンティン・ハイドリッヒさん(チェロ)

―最新アルバム「After Hours」の構成はどのようなことを意識しましたか?

今の時代ならではですが、色々なプレイリストを作り、色々な構成を試しました。その中で一貫して大切にしたことは、今回のアルバムは私たちの今までの演奏活動の旅路(軌跡)を残すものにしたかったことです。具体的には、楽曲の調性や和声、楽曲の持っているキャラクター、パッション性などを考えながら、聴く人の心に残るような構成を心掛けました。それは、喩えるならフルコース料理のメニューを考えるように、前菜からメインディッシュ、デザートまでお客様に美味しく召し上がってもらうことに似ているかもしれませんね。また、このアルバムは多くの小品で構成されていますが、アルバム全体で1つの楽曲としてとらえることも出来ますし、お気に入りの曲だけを取り出して聴いてもらっても楽しめるような構成にもしました。

エリカ・ゲルトゼッツァーさん(ヴァイオリン)

―ディルク・モメルツさん(ピアノ)にお聞きします。“ラフマニノフ:練習曲集『音の絵』から“や”ムソルグスキー:展覧会の絵“などをフォーレ四重奏団のために編曲されており、大変ユニークな試みかと思います。編曲にあたり気を付けている点はありますか?また、今後どのような曲をピアノ四重奏用に編曲してみたいとお考えでしょうか?

ラフマニノフとムソルグスキーはてもユニークな試みでした。実際、私にとっても初めての試みでしたし、ラフマニノフは、とてもピアニスティックな音楽なので、編曲するのが非常に難しかったです。私がラフマニノフの「音の絵」、ムソルグスキーの「展覧会の絵」を編曲した理由は、それらが同じ歴史を持っているからです。指揮者の巨匠クーセヴィツキーは、ラヴェルにムソルグスキーの「展覧会の絵」を、またレスピーギにラフマニノフの絵画的練習曲「音の絵」から5つの曲を編曲するよう依頼しました。歴史的な話はこれくらいにしておきましょう。このように、これらの編曲の背景には共通する部分が多くあります。そして、これらの曲を私たちの言葉であるピアノ四重奏として表現したいと思い、編曲しました。編曲の過程で、ピアノ四重奏の理想は音楽を響かせることであることにも気づかされました。 例えば、ムソルグスキーの「展覧会の絵」の編曲にはプロセスも重要ですが、曲がどのように展開していくかイメージすることが最も大切でした。幸いにも私は気心しれたメンバーの奏でる音が手に取るようにイメージ出来るため、このメンバーで最高のパフォーマンスが出来る編曲をすることが出来ました。そのように、これからもフォーレ四重奏団にふさわしい唯一無二な編曲をしていきたいと思っています。

ディルク・モメルツさん(ピアノ)

―フォーレ四重奏団はアルバン・ベルク四重奏団に師事されていましたが、思い出に残ったことや逸話があれば教えてください。

色々な思い出がありますが、特に印象的だったのはアルバン・ベルク四重奏団ヴィオラ奏者のトーマス・カクシュカ氏から学んだことですね。彼のレッスンはいつもユーモアに溢れており、笑いが絶えませんでした。ある時、私たちは新しい難曲のレッスンを見てもらいました。彼はこの難しい楽曲をとても綿密な楽曲分析をして、ユーモアを交えながら私たちに作品を完全に把握できるまで丁寧に教えてくれました。私たちにとって、それまでそのような経験がなかったので本当に心に残る思い出となりました。
ヴァイオリン奏者のゲルハルト・シュルツ氏は音に対してのこだわりが非常に強く、プレイヤーは音に対して常にこだわりを持つことが大切だという事を徹底して教えてくれました。彼は、私たちが本当に純粋に彼の求める音を自由に奏でられるようになるまで決してブレることなく、私たちの潜在能力を信じて熱心に指導してくれたことを今でも思い出します。また、アルバン・ベルク四重奏団は、同じメンバーで演奏活動を続けるにはユーモアが大切であることも教えてくれました。長年同じメンバーでやっていく中では音楽の解釈や活動方針について衝突することもあります。そのような時に、センスあるユーモアが大切であると彼らから学んだ気がします。

サーシャ・フレンブリングさん(ヴィオラ)

―パンデミックが収束してから初の来日公演となりますが、どのような内容の公演になりましたか。

まず、大好きな日本に戻ってきて、今回も心に残るコンサートが出来たことをとても嬉しく思いますし、このような公演を企画、協力してくれた関係者の皆様には本当に感謝しております。また、日本の聴衆の皆さんは、私たちの音楽を心の底から楽しんでくれているようで、プレイヤーとしては大変嬉しかったです。なによりもコロナ禍の影響もあり、皆さんが生の演奏を待ちに待っていたように感じました。そのように、私たちは全てのコンサートで日本の皆さんと共に音楽の素晴らしさを分かち合える幸せを嚙みしめながら演奏しました。

―誰もが平和な世界を願っていると思いますが、昨今、世界では悲しい出来事が日々起こっています。そのような中、ミュージシャン、音楽の役割とはどのようにお考えですか?

世界で起きている悲しい出来事は中々止められないですけど、本当に平和や友情などお互い思いやることがどれほど大切なことかと思います。私たちミュージシャンは音楽を通して、それらを伝えていかなければならないと思います。音楽の中でも色々な衝突(曲の解釈に対する意見の言い合い)はありますが、それは必ず素敵なハーモニーを奏でるという解決へ向かうための衝突であります。そのように音楽を通してハーモニー(人とのコミュニケーション)の大切さを伝えていければと思います。また、人は独りで生きていくことには限界があると思います。教育をすることでより多くの人が音楽に触れ合う機会をもっと持って欲しいと思います。そして、人とのコミュニケーションを必要とする室内楽を多くの人に知ってもらい、経験してもらいたと思います。そうそう、プーチン(大統領)さんはピアノ弾くそうですが、室内楽をやったことがないのかもしれませんね・・・(笑)。

数年前、横浜で子供のためのレクチャー・コンサートをした時に、ある子から“音楽をやったら良い人になれますか?”と質問がありました。その時、私たちは思ったのですが、文化や音楽をもっともっと知ることで、互いを受け入れられるような良い人になれるし、なれるべきだと思いました。私たちはパンデミックで色々なものをなくしましたが、パンデミックが収束した今、ビジネスを抜きにしても、もっともっと沢山のコンサートをやることが大事で、それはより多くの豊かな人間性を育むためにも意味があると思います。ベートーヴェンにしろ、モーツァルトにしろ、ブラームスにしろ、それらの音楽を深く理解すればするほど争い事の虚しさや無意味なことに自ずと気づくと思います。そのように私たちは、これからも自分たちの言葉である音楽を通して一人でも多くの人が幸せになれるよう演奏し続けたいと強く思っています。

―プライベートな質問になりますが、日本に滞在中、仕事以外のオフタイムで楽しみにしていることはありますか。

はい、沢山あります!
いつも日本に来る時は、やりたいことをリスト・アップしてきます。
リストには、バックパックで奈良や京都へ旅行することや、天気が良ければ富士山へ行って趣味の写真撮影や温泉巡りをするなど色々なことが書いてあるのですが、実際にはなかなか実現出来ていません(笑)。ただ、今回は念願の“しゃぶしゃぶ”を食べることが出来て本当に嬉しかったです!
あと、もっともっと日本の皆さんとコミュニケーションを取りたいので、今度日本に戻ってくるときまでには日本語も少し勉強したいですね。
本当に日本は魅力的なことが多いので、滞在中は毎回ワクワクしています。

―最後に日本のファンの皆さんに一言お願いします。

パンデミックという困難を乗り越えて、また日本の皆さんの前で演奏できたことを本当に嬉しく思っています。私たちにとっても日本でのコンサートはいつも特別であり、日本の聴衆の皆さんは本当にクラシック音楽に対してとても真摯に向き合い、私たちが紡ぎ出す音を感じ取るように聴いてくれます。それはプレイヤーとして本当に幸せで嬉しいことです。
いつも応援をありがとうございます。
これからもフォーレ四重奏団は皆さんと音楽の素晴らしさを分かち合えるような演奏をしていきますので、引き続き応援よろしくお願いします!

フォーレ四重奏団の皆さん、お忙しい中インタビューにご対応いただき、ありがとうございました!

【最新アルバム】*2024年2月時点
「AFTER HOURS」
フォーレ四重奏団
(品番:0303126BC, Edel Music & Entertainment GmbH)

[Imformation]
・フォーレ四重奏団公式サイト
http://faurequartett.de/en/home-english/
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