「アメリカマーケット(需要)」と「日本のブランド(供給)」を繋ぐ。フィジタル・プラットフォーム「DECO BOKO」
お二人が一緒にやろうと思ったきっかけを教えてください。それぞれ違うことをやっていたと思うんですけど。
ハーバートさん:
元々トータスの篠本さん(*)のところでバイヤーをやってたんですが、そこから独立したのが2017年ぐらい。最初はロサンゼルスだけでショールームをやっていて、卸をやりながらNY NOWに出展していました。現場のスタッフを探しているときに、ニューヨークに共通の知り合いがいて、それでマリコさんが出来るよって話になってブースのスタッフとして働いてもらったのが最初です。
*トータス篠本さんの記事はこちらから↓
「Cool」な日本文化の仕掛け人 -TORTOISE GENERAL STORE- 篠本 拓宏さん
マリコさん:
その時、私はジュエリー会社のホールセールのショールームに所属してました。それでその会社がNY NOWに毎年出展していて、その共通の知り合いからハーバートさんて人がいるよ、って言われてたんですが、ものすごく忙しかったのでその時はとりあえず名刺だけ渡して、その時は別に何もなくとりあえず、「どうもどうも」くらいの感じで。
で、その時はそれで終わって、その後ハーバートさんから連絡をもらって、じゃあまあ一回一緒にやってみようか、手伝ってくれない?みたいな感じで。ちょうど私もジュエリーの仕事もフェイドアウトして、フリーでもやり始めてた時期で。ちょうどそんなところで、一回目ヘルプしたのが何年くらいだろ、
ハーバートさん:
18年か、19年ぐらい、ちょうどコロナのちょっと前ぐらいかな。
もともと僕のパートナーとして日本側に大滝さんという方がいて、一緒にロサンゼルスに会社を作ったんですが、その会社がアメリカ側の受け皿としての機能もあるので、大滝さんが日本からの案件を結構僕に振ってくれる。そこで、日本のクラフトビールを西海岸でPRするっていう企画をもらうんですけど人が足りないっていう話になりマリコさんに西海岸に来てもらって。そこで大滝さんもこの方すごいですね、みたいな感じで気に入って。
だったらニューヨークに事務所を構えて、LAとニューヨークで展開しようということになり、マリコさんを正式に1-81 Agencyに迎えいれて、そこをハンドリングしてもらおうというが流れです。
じゃあ、ちょっとやっていこうか、って。
そうするとそれは2019年とか20年くらいの話?
ハーバートさん:
それが2020年の頭ですね。やっと事務所を契約した2週間後くらいに、コロナでロックダウンが始まって、契約したのに一年くらいは事務所として使えなくて。そこから会社としてもあまり良くはないという時期も続いて、でも頑張って家賃も払い続けてっていう…
コロナの影響で展示会もしばらくの間無くなったじゃないですか。とは言え、自分たちは日本のブランドを預かっているので、とにかく見せる場所がないとダメだな、と。じゃあ、もう自分たちで展示会をやるしかないかなというところから「DECO BOKO」の発想というか。
ちょうどその頃に、フィジカルとデジタルを掛け合わせた、「フィジタル」っていう言葉があって。オンライン展示会をまず最初にやろうとしてたのが「DECO BOKO」だったんですけど。オンラインからスタートするけど、ゆくゆくはフィジカルも復活するだろうと。じゃあ、ちょっとやっていこうか、って。
「DECO BOKO」にはどういった意味がありますか。
凸凹している、何か異文化とか、色々なものが合わさったようなイメージがあるのかな。
ハーバートさん:
トータスから離れてTortoise Agencyを改名して「1-81 Agency」(ワンエイティーワン・エイジェンシー)を始めました。1-81 Agencyの「1-81」は1がアメリカの国番号で、81は日本の国番号なので、それを繋ぐ、みたいなコンセプトで、そこでやってるとアメリカのバイヤーは日本のものがほしい、日本のメーカーはアメリカのバイヤーに売りたい、でもやっぱりハードルが高かったり色々なことで、お互いにやりたい気持ちはあるのに成立しないということがあります。そこの部分を自分たちなら解決できるんじゃないかな、ということで「需要と共有」を「DECO とBOKO(凸と凹)」で表したっていう。
DECO BOKOのロゴも漢字と凸と凹を合体させたようになっています。
ニューヨークを拠点としているグラフィック会社「Studio Newwork」が全体のデザインを統括しました。
マリコさん:
で、私たち自体も結構凸凹で。
それは要するに二人のカバーする領域が違うということですよね。
マリコさん:
もともとの分野も違うっていうこともあるけど、今も結構ハーバートさんはクリエイティブ部門のほうで動いていて、私はどっちかというと「セールス」や「数字」といったビジネス面を見ている感じで、でも、何かすごくお互いが「合致」して。
ハーバートさん:
何か偶然とかそういうことが結構起こる、起こりやすい感じ、みたいのはあって。暗黙の了解というか、阿吽の呼吸ですごく仕事しやすいなっていうこともあって。多分4年くらい?ご一緒させていただいてます。
やっぱり人を喜ばせることがすごい好きだなぁ、って
ニューヨークとロサンゼルスだと、そこのカルチャーとか好まれるものとかも違うと思うんですが、じゃあ今度はマリコさんに伺います。生活などの基盤とは別に、やっぱりニューヨークが好きでビジネスの面でもすごく良いと思ってかとは思うんですが、ニューヨークにいるきっかけや理由を教えてください。
マリコさん:
ジュエリー関連の仕事の前は、舞台衣装の仕事をしてました。27歳までずっと日本にいて、それこそ紅白とか歌舞伎の市川家の何々とか、あとディズニーランドのパレードの衣装とか、はたまた芸能人のCMとかドラマ衣装の仕事をしたり。幼少時代はずっと父が海外に出張していて、英語を使った仕事をしているっていうのを見ていたのもあり、舞台衣装の仕事をしながら英語もずっと学んで、みたいな。
(ここからマリコさんが幼少期に通ったECCジュニアに話が飛び、最初のレッスンが優しすぎるなど本当に生意気なことを言ってたとか、ハーバートさんはお母さんが自宅でECCジュニアの先生だったなど、大盛り上がり。もう一回仕切りなおしで。)
マリコさん:
舞台衣装の仕事をする前に、私、派手な時期があって(笑)、なぜかっていうと、全盛期の109で働いていて、そのときの流行りミニスカートを何千枚も毎日売っていて。洋服が好きだけど同じ型のものをずっとみんなに売るのってすごいなというか、つまらないなぁなんて思ったりしていたころに、宝塚歌劇団を見て、舞台衣装って「何これ!?」って思って。そういうものって1個しかないし、今やっているマルキューの服とは違って、オンリーワンでクリエイティブだし同じファッションでも全然違うなって。舞台衣装ってすごい、って思って…じゃあ舞台って言ったら何だろうと。あ、じゃあニューヨークのミュージカルだなと。で、ずっと英語を使って海外に行きたいっていうのがあったので留学してみようと思いました。
それで、ブロードウェイのミュージカルを見て、「あ、すごい!」「何これ!?」と思って。目の前でライオンキングとか見て衣装もすごいなと思って、ブラジルのサンバカーニバルにも行ってサンバの衣装も見たり。
ハーバートさん:
ブラジル行ったの?
マリコさん:
行った行った。もう衣装見たくて一人で行って。(笑)
それで感化されて帰ってきて、それから衣装の勉強をして、そこから、先ほどの市川家とかの話に繋がっていく感じです。
それでニューヨークに行くんですね。
マリコさん:
そう、もう自分のなかでも行く準備ができたかなと。それで、文化庁新進芸術家海外研修制度に応募しました。文化庁の皆さんの前で私がどれだけ舞台衣装に関わるために海外に行きたいのかを色々プレゼンをして、それで選ばれてスカラシップでいただいて。
(渡米後もすぐ舞台衣装のエージェント会社にお勤めになり、ライオンキングなどの大きな舞台やスパイダーマン、ディズニー関連や、メトロポリタン・オペラとかニューヨーク・シティ・バレエなどの仕事にも携わり活躍されます。)
石岡瑛子さんをご存知ですか?もう亡くなられてしまったのですが、ハリウッド映画など衣装デザイナーをしている方で、その方とずっと一緒に仕事をしたいなと思っていたら、スパイダーマンをやった時に瑛子さんがその舞台衣装のデザイナーになって、その作り手のエージェントに唯一所属していた日本人が私でした。瑛子さんはご年配でらしたんですが英語もそんなに得意ではなかったので、「瑛子が来るときはマリコが」みたいな感じで側近のようにお仕事させていただきました。
それも、すごい経歴というか経験ですね。
マリコさん:
(そのエージェントを辞めて)じゃこれからもどうしようかな、みたいな感じでいて、ニューヨークも刺激的な街だし、やっぱり舞台のエンターテイメントの仕事をしてたんで何か人を喜ばせるとか、そういうことがすごく好きで。(舞台だと)ずっとやっぱ初日まで頑張ってクリエイション側なので色々作ったりデザインするじゃないですか。で初日に舞台があいた日ってすごい感動的なんですよね、自分のやったものの舞台を観るって。その刺激がすごく忘れられなくて、やっぱり人を喜ばせることがすごい好きだなっていうのがあって…
そういうところが原点にあるんですね、やっぱり。
マリコさん:
でファッションも好きだし、海外っていうのも好きだな、っていうところから、とりあえずジュエリーの会社で働いてみようかなと思って、さっきお話した会社で。
それはハーバートさんと会う前ですよね。
マリコさん:
会う前ですね。そのホールセールのエージェントではアメリカのジュエリーデザイナーを20ブランドぐらい扱ってたと思うんですけど、そこで私はそれまで舞台衣装しか知らなかったので…
それもまた全然ちがう世界ですけど…
マリコさん:
そうなんです(笑)作ることしか知らなかったので、ホールセールで売るっていうことは初めてで、しかも日本人のいない会社で、ずっとバリバリ卸のセールスをやってきたアメリカ人女性が社長で、その方にアメリカ流のホールセール・セールスを叩き込まれて(笑)
それもシリタイですけど(笑)
ハーバートさん:
で、1-81 Agencyのニューヨークをお任せしたい、と。トレーニングもしなくていいし、もう色々わかっているから、すっと入ってもらえるだろうな、と。
マリコさん:
でも、そこが原点で、そこからジュエリーのエージェントがNY NOWなどに結構出展してたので実地でセールスっていうのを覚えて、そこでまたお客さんとしゃべる楽しみとか、納品してお客さんが喜んでくれて、よかったわ、なんて言われるとすごい嬉しくて。
やっぱ原点にそういう人柄っていうか、そういうのがあるんだろうね。
マリコさん:
お客さんが喜んでくれるとすごく嬉しいし、そのバイヤーさんの先のエンドユーザーさんも喜んでもらえるっていうことが、すごくセールスやってて使命感があるなっていうか、いい商品を紹介して良かったなぁ、と思うし。
マリコさんは日本でも働いてらしたけど、自分の想いのままにアメリカまで行っちゃったじゃない?(笑)
その勇気っていうか、ハーバートさんはね、そういう感じじゃないですもんね。
ハーバートさん:
僕はアメリカに「行く」って感覚はなかったですね。
マリコさん:
高校もアメリカの学校ですよね。
ハーバートさん:
僕がアメリカの高校にいった理由もバスケ選手になろうと思っていて、それが無ければ別に多分アメリカにいってないんじゃないかな。
マリコさん:そうなんだ。
ハーバートさん:
アメリカに行きたいっていうより、たまたまアメリカがバスケが盛んだってっていう。
割とそこは自然な流れだよね。マリコさんの場合はアメリカでちょっと…
マリコさん:
ひとりでがんばってぇ、みたいな(笑)
初めてハーバートさんと会ったときは、ハーバートさんは初めからシチズンシップもあって、英語も喋れてっていう状態で、私と全然違うルートで来ててうらやましいなっていう、ちょっとジェラシーを感じたことはあります(笑)
それでもやっぱり行って良かった?日本を飛び出して。
マリコさん:
うん、すごくよかったですし、ライフスタイルとか私のこの性格とかも、
もともとアメリカ人ぽいですよね、話やすいしオープンだし
マリコさん:
(笑)アメリカ人ぽいですか?
まぁ、でも結構コミュニケーションとか好きなんで、アメリカに行ってもっと自分らしさを発揮できたし、新しい自分も発見出来ているかなって思っていますよね。
日本の物だからいいでしょ、っていう文脈は嫌いなんですよね
商品は色々なものを扱っていますよね。お二人はどうやって取り扱う商品を選んでいるんですか。
マリコさん:
選ぶのはハーバートさんだよね。
ハーバートさん:
僕はもともとバイヤーをやっていて、それを経て今、卸をやったり、小売りをやったりしているんですけど、いろんな日本人のエージェントとかアメリカの日系のエージェントがいる中で、多分、僕ほど小売りを経験した人はいないんじゃないかなと思っています。実際に日本の展示会に参加するときも、その先のメーカーさんとか工房とか作家さんに会いに行って話を聞いた上で商品を選んでいます。それをアメリカ流のフィルターにかけて落とし込んで、実際にお客さんに説明して、それを買ってもらうところまで全部見ていると、大体どういうものが売れるかとか、これをどういうふうに説明したら売れるかっていう想像がつく。
アメリカ流にフィルターをかけるということだけど、やっぱりアメリカだと日本人がものを買う時の視線とは違ったりしますか。
ハーバートさん:
もともと僕のバックグラウンドとして、祖父がアメリカ人で、父親がハーフで日本生まれ日本育ちなんです。でも、アメリカの家族がカルフォルニアにずっと住んでいて、小さい時からアメリカ人としてのカルチャーも両立させてもらいながら、そういう狙いで育てられたので、それを学んで得たわけじゃないというか、普通にアメリカ人に切り替えられるし、日本人としても別に普通に切り替えられる位置っていうところを活かしたいなと思ってます。それが多分自分の得意分野として、何かものを探して売れそうなもの、売れなそうなものを判断できる、段々その精度が上がってきていると思うんですけど、それが多分今、JETROとか国関係の仕事にも活きているんじゃないかなと。
マリコさん:
結構、私ともバックグラウンドが違うしね。だから、雑貨関係の目利きとかはハーバートさんで、例えば「DECOBOKO」に関しては、やっぱり人が喜んでくれるプラットフォームというかその基盤になるものを私が作って、そこに「色をつけてくれる」のがハーバートさんっていう、そんな感じの役割。
「色をつけてくれる」、いいフレーズ出ましたね(笑)
今、日本のプロダクツはアメリカではどういう受け止め方をされてますか?
ハーバートさん:
大きな枠で言うと、昔は日本の物と日本以外のアジアの物の見分けがついていなかったということもあると思います。昔と言っても僕がトータスに入ったのが2010年くらいのときで、当時、日本のものと言えばアパレルケイだったり、その前は家電とかっていう時代があったりして、多分10年とか20年単位で日本のものに関する流行りも移り変わっている。今はそれが「ライフスタイル」っぽいものだと思うのですが、それは多分、国の政策とかの影響もあると思います。(トータスに入った)2010年から今13年くらい経っているなかで、何も言わなくても、「あ、これジャパニーズデザインだよね」っていうのが判る人が増えてきているっなってところが、大きな見方です。
そういう見方に立って商品のセレクトや、バイイングを行っている、と。
ハーバートさん:
個人的には「日本のもの」として売ってるわけではなくて、純粋にそのプロダクツとか作品がいいか悪いかっていうところだけを見てるんですね。そのものの肉付けとか、その後押しとして「日本のもの」だっていうのはあります。 でも、日本のものだからいいでしょ、っていう文脈は嫌いなんですね。SF76(https://www.sf-76.com/)とかトータスもそうですけど、「日本の」とか「JAPAN」といった単語が一切入っていないので、そういうほうがやっぱり将来性があるというか、長続きする良さっていうのは発信できるんじゃないかなと思っているので、DECOBOKOでも説明はできるけど、純粋にこの商品はみんないいって言うじゃんっていうものしか扱わないというか、扱っていないです。
僕らが選んでる商材とか、やってるお店のコンセプトは、やっぱり日本のその棲み分け方とは違うんですよね。日本って結構年齢とか性別、年収とかそういうことで分けて、この人たちにはこの商売、みたいなやり方が多いなって思うんですけど、それは多分日本という国がほぼほぼ日本人しかいなくて平均的な年収の人の幅が広いっていうのがあると思うんですね。アメリカはすごいバラバラなんで、あんまり性別とか年齢とか、ターゲットを絞れないんですよ。どこに絞るかっていったらやっぱりテイスト。こういうものが好きな人は、こういうものも好きなんだろうなっていう、きっとこうなんだろうなっていうのが軸になっている。
確かにね、難しいですよね。ターゲットを絞るのは多すぎるし。
ハーバートさん:
お笑いとか好きですか。ガキの使いとか見ます? 「どうせお前こんなん好きなんやろ選手権」っていうのがあるんですよ。それはそのメンバーに例えばカーディガンだったらこれ、この人は多分こういうの好きだよねって、で、誰がその一番好きなやつを買ってきたかを決めるみたいな。それなんですよ、今僕がやっているバイイングって。どうせ、とは言わないけど、こういうのが好きなんだろうなっていう感じ。そういう考え方の中でやっている。そういう中に、女性的な目でみる視点とか男性的な部分っていうのは常に混在してるのかな、と。
マリコさんとハーバートさんがお二人のビジネス上のパートナーシップを説明してくださったので最後に纏めておきます。
マリコさん:
私たちの会社の構造としては、ハーバートさんにはナイアガラ・トータスという会社があって、私の会社 North Lane International の中で運営しているのが「DECO BOKO」っていうプラットフォーム。なので、私がこのプラットフォームを作って仕掛けの部分をやっていて、そこにパートナーで入ってくれているのがハーバートさんで、彼がそこに色を付けてくれている。パートナーシップという形で。逆にハーバートさんのナイアガラ・トータスの中にはLAとニューヨークのショールームとホールセールのビジネス、それからSF76のリテールがあって、あとJETROとかのコンサルがある形です。
ハーバートさん:
「DECO BOKO」に出展したい人はマリコさんと契約する。ショールームに入りたい人は1-81と契約する、と。
とのことでした!ご多忙の中、お二人ともありがとうございました!!
DECO BOKO
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1-81 AGENCY
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SF76
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