ミュージック・レビュー:TENNIS / POLLEN

REVIEW
Text by Y.YOSHIDA
■ TENNIS (テニス)
同じコロラド大学の生徒だったパトリック・ライリー(G)とアライナ・ムーア(Vo、Key)によって2010年に結成されたインディーポップバンド。2011年に1stフルアルバム『ケイプ・ドリー』を発表、2020年までに5枚のアルバムをリリースし、世界的な人気を拡大している。2023年2月、前作『Swimmer』から約3年ぶりとなる新アルバム『POLLEN』をリリース。

ドリーミー・エレポップの最高峰テニス

ドリーミー・エレポップの最高峰テニス(自分はテネスと発音している。つまりスポーツのテニスと混同を避けたい)の3年振り6作目の発売から半年が経過した。今は全米ヘッドライナーツアーを終えて落ち着いている頃かも知れない。

やれフリートウッドマックの裏街道だのカイリー・ミノーグのダークサイドだの兎角人は「似たもの分類」して彼らの音楽を簡略化したがる。その方が理解し易いし安心するのだろう。それを言い出したら他にも例えは色々ある。「アメリカのセントエティエンヌ」「シナモン他スウェディッシュロックのアメリカ的消化」「リアルエステイト等のギターポップにケイト・ブッシュのコケティッシュさを加味」いかがかな、かなりの安心感を得たであろう。所詮人は知っている音楽にしか反応できないのである。

しかしながら心中穏やかで無いのは当の本人達だろう。2012年彼らのセカンド・アルバムが国内発売になった頃からインタビューやマスコミへの登場機会が増えるに従って自らのルーツ音楽を口にすることが多くなった。聞けばクラシックやミュージカル、古くは50年代のポップスに影響を受けているという。時代のアイドルとしてジュディ・ガーランドやシュレルズ等その周辺には確かにドリーミーで良質な音楽の原石は豊富に存在していた。親からの影響も大きいだろう。そうした自らのルーツ音楽について、DNA的にこびりついた記憶の断片をちりばめて自らの音楽にすることを人は「再構築」あるいは「愛あるパクリ」と表現している。これは受動的にも能動的にも存在するし、否定出来ないものだ。

「積み木崩し」こそアーティストたる所以か

振り替えれば大学を卒業してすぐに8ケ月の劇的航海に旅立って、その思い出を歌にした。記憶の中のメロディと共に。その後あれよ、あれよという間にヒットメーカーとなりインディ街道をひた走って来た二人。ボーカル/キーボードのアライナ・ムーアとギタリストのパトリック・ライリーはこの間幸せな結婚も経験している。曲がりなりにも2017年にリリースされた『Yours Conditionally』は、最も商業的に成功した作品となった。アルバムはビルボードのインディペンデントリストで 4 位にランクインし、最も売れたレコードのトップ 100 にランクイン。直近のアルバム「swimmer」でも再び洋上のアコースティックセッションを経て制作された作品として新たなファン層を広げたのだ。

突っ走って来た夫婦バンドに転機は訪れた。これまでの道のりを振り返った二人は6作目にして「何も残していない」「自分たちのメロディを作りたい」と切望するようになる。くしくもそれは影響を受けた音楽からの脱皮であり、相当な苦難を伴う作業になったことだろう。70年代のミュージシャンならドラッグに頼ったり、レゲエ~インド音楽といったフィールドの違う音楽を新作に持ち込んで自らに無いものを充填したことであろう。しかしながら今やCHAT GPTなる曲者も登場するこのネット社会で「TENNISに似た曲を作れ」と言われれば簡単に出来てしまう訳で、これは正に最先端科学と自己への極限の挑戦という事になる。自分達らしさを追求するのというのは、言葉は容易いが昔のサッカー日本代表のようにお題目だけになってしまっては得るものも無い。

「新たな自分探しの旅は、やはり自分らしさへの帰還でもあった。」

しかしてアルバム4曲目の「One Night with The Valet」は試行錯誤を繰り返し完成。最後の瞬間彼らは初めて天から音楽が下りてきたと感じたという。この曲の制作過程において1曲目「Forbidden Doors」と7曲目「Paper」そして6曲目の「Hotel Valet」の3曲は「One Night with The Valet」からパーツとして派生したものを転用して作られた姉妹曲でもある。歌詞を手に取って欲しい。彼らは決してラジオサイズのヒット曲など望んでいない。自分たちを見つめれば普段着の様々なことをメロディや歌詞として取り込んで結晶化している。その分幾ばくかは「内省的な」表現に陥ってしまうが、これが彼らの現在地なのだ。ジャケットに目を転じれば片隅に「POLLEN」と書かれている。「受粉」なんとも意味深なタイトル。花開いた後は花粉となって風に舞うその姿。この先実をつけていく花を自分たちに重ねているのだろうか、果敢な挑戦を成し遂げた夫婦バンドの力強い抱擁の意味を知ることであなたは真のTENNISファンになることだろう。

「新たな自分探しの旅は、やはり自分らしさへの帰還でもあった。」早くも次作が楽しみなTENNISだ。

[Information]
TENNIS / POLLEN

■発売元:Mutually Detrimental - Thirty Tigers
■商品形態:CD / LP / LP(カラー盤)
■品番/バーコード:
CD: MD-008CD / 0793888106079
LP: MD-008LP / 0793888105874
LP(カラー盤):MD-008EXC / 0793888105973

■Tracklist:
1. Forbidden Doors
2. Glorietta
3. Let's Make A Mistake Tonight
4. One Night with The Vale
5. Pollen Song
6. Hotel Valet
7. Paper
8. Gibralter
9. Never Been Wrong
10. Pillow for a Cloud

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