「Cool」な日本文化の仕掛け人 -TORTOISE GENERAL STORE- 篠本 拓宏さん

FEATURE
Edit & Text by Shiritaikun Photo by Yoshie
トータスジェネラルストアーは、2003年にアメリカロサンゼルスのアボットキニーを拠点に、デザイナーでオーナー店主の篠本拓宏さんと桂子さんが立ち上げたセレクトショップです。トータスジェネラルストアーが、生活に根差した 『Coolな日本文化』を、アメリカに知らしめるムーブメントを作るきっかけを作ったとも言えます。その仕掛け人でもある篠本さんにお話しをうかがいました。
篠本 拓宏
『TORTOISE GENERAL STORE』オーナー。デザイナー。

―「Cool Japan」は、最初から意識したのでしょうか。

クールジャパンのフレーズは日本国内のプロモーションのように思うのですが、特にそれを意識した仕掛けなどは行っていません。僕の店がやっていることは、そもそもそういうことなので、特にあらためて意識したことはないです。

―「そういうこと」とは、「品格のあるカッコよさ」の追求であり、日本の良さを発信すること?

はい。純粋な日本を伝えつつも、新たにデザインした商品としての「道具」を通じて、アメリカ人にエデュケーションし、アメリカのライフスタイルと合わせていくようなイメージでしょうか。

ちなみに、(海外で現代日本の文化とされている)アニメやラーメンなどは、サブカルチャー。国が介入してくると、「クール」じゃなくなってしまうような気がします。

―アメリカに移られる前はどのようなことをされていましたか。

大学卒業後、88年にIDEEに就職し、商品開発や企画、デザインをしていました。
2000年以前のそのころ、デザインはヨーロッパ、アメリカが進んでいたので、欧米のデザインを日本にどうやって取り込み、日本のマーケットに落としこむかということに注力していました。仕事は面白かったのですが、当時、すごい勢いでモノづくりをしていて、企画量もすごいペースでやっていたので、だんだん、そのやり方に少し疑問を感じてしまい、会社を辞めたんですよね。そして、アメリカでグリーンカードを申請したら取れることになったので、何のつてもなかったんですが、とりあえず渡米しました。

―思い切った選択をされたんですね。

はい。その時、既に30歳半ばでした。IDEEでは、ある程度の立場で仕事やっていましたが、だからといって、デザインで食べていけるかというと簡単ではなかった。なので、小売店をするという選択をしたんですよね。場所はニューヨークかロサンゼルスで迷いました。ニューヨークの方が少し進んでいたけど、東京のような喧騒はもう嫌だなという気持ちもあり、ロサンゼルスに来たんです。

日本の雑貨に着目、リサーチ

―そのころのロスはどんな感じだったんでしょう。

ロサンゼルスは今でこそアートギャラリーだらけなのですが、2000年当時、デザインに関しては不毛地帯というか、映画やエンターテイメントが中心な感じで、デザインといえば50’sが中心で、日本のインテリア雑貨を売っている店がなかったので、需要があるかないかも想像がつかなかった。なので、とりあえず、手ぬぐいでも売ってみるかという感じでスタートしました。当時、日本の焼きものを、ダサいなと思っていたくらい理解できていなかったほど(笑)。なので、他にどういうものがあるかリサーチを始めたわけです。ちょうどそのころ、柳宗理がブームになり始めました。日本にもこんな洗練された工芸(インダストリアル・デザイン)があると関心を持ちました。

―柳宗理の工芸がきっかけなんですね。

振り返ると、1990年台の日本では、1950~60年台のデザインブームがあり、日本やアメリカ、北欧の古いものを見直す流れになっていた。その中で、白山陶器や南部鉄器釜定の昔のデザイン(継続して当時も今も生産されている)を見て、とてつもない新鮮さを感じました。外国のデザインも取り入れていて、純日本的な工芸とは違うものでした。ずっと外国のデザインをフォローしてきたので、日本にもこんな洗練されたクラフトがあるのかと言う感じでした。なので、白山陶器とか、南部鉄器からリサーチを始め、その後、西海陶器に至り、「ハサミポーセリンシリーズ」を西海陶器さんと一緒にブランディングしていきました。

―ハサミポーセリンシリーズの誕生秘話を教えてください。

ちょうど、洋食器も扱いたいなと考えていたんですが、アメリカで売りたい食器、売れる食器がなかったんです。一番はサイズの違い。ご存知のようにアメリカはすべてが大きいです。普通のお皿は、日本は大きくても22センチくらいなんだけど、アメリカだと25センチ。テーブルも、フォークやスプーンも大きい。そのため、日本には洋食器の商材がなかったんです。そこで、西海陶器さんに話し、アメリカ向けに作ろうと持ち掛けたのが最初でした。それで、アメリカで最初に発売して、日本でもアメリカのライフスタイルっぽいブランディングをしようという考えで進めました。

―大ヒットしましたね。

「ハサミポーセリンシリーズ」は、一回で数千個単位で作れるので、比較的製作コストが下げられました。安物でもなく、高級でもない価格帯に落とし込めたのも成功した要因でしょうね。今は中国からも安い日本製っぽいものもアメリカに入ってくるので、高すぎる設定だとうまく売れないんですよね。

―アメリカで日本カルチャーがリミックスされたものを日本に逆輸出した形のハサミポーセリンシリーズですが、これは日本での反響はどんな感じでしたか。

元はアメリカ市場用の開発でしたが、初めから日本市場も視野に入れて企画しました。男性的なデザインだと思っていたのですが、意外に女性にも受け入れられたのがよかったです。

日本文化に影響を受けたアメリカでの新しいライフスタイル

―アメリカ人の日本の雑貨に対しての意識は、スタート当初から変わったと思いますか。

たぶん、彼らが使いたいものやサイズ感は変わっていないと思うんですけど、日本の雑貨の認知度も上がり、選択肢の一つとして認識されたと感じています。例えば、今、アメリカでは土鍋がすごく売れていますが、土鍋なんてアメリカでどうなんだろうと思っていましたが、受け入れられているから面白いですよね。

―日本食を作って食べる人が増えたからというのもあるのかもしれないですね。道具をきっかけに、新たなライフスタイルが生まれた面もありますでしょうか??

アメリカ都市部では、外食で日本食がある程度行き渡っているから、家でも作って食べるように移行していったと思う。日本でもイタリアンレストランが流行って、今度は家で作るといった流れと同じです。日本の食材を求めるアメリカ人が日系スーパーに現れ、作るための道具が必要になるわけで、土鍋を買い求める人が増えた。アメリカでも近年、丁寧に暮らすと言う時代の流れが出て来たから、その流れと上手く合ったと推測しています。

―新しい日本と西洋の文化の融合によって時代の中で新しい価値観のライフスタイルがアメリカや日本で出来上がってきた面白さを、結果的に仕掛けたとも言えますね。

情報伝達や物流が進化したことと、コロナがあって、人が移動出来なくなった半面、情報や物は以前よりかなり簡単に手に入れる事が出来るようになりました。物を移動して輸入して見せて売って伝えることより、人自身が国や文化を超えて移動して、物や事を伝えたり、影響を受けたり与えたり、そしてそれで出来上がるものがあるなと思います。そう言う事や物が貴重で尊重されるようになるのではと思います。

―最後に。文房具を一緒に作りたいなと思うんですがどうでしょう?

僕がやるのは、ブランディングからです。
日本だけではなく、アメリカでも受け入れるディレクションをします。もちろん、文具もやりますよ、文房具はそんな壁はないんでしょうけど、値段とか、サイズからなんか一緒にやりましょう!

今でこそ米国でも日本のデザインはクールだと高い評価を得られていて、ビジネスにもなっているのですがまだそういった評価や知名度がない2000年代初頭から、篠本さんは御自分の感性をたよりに、試行錯誤しながら、米国市場を切り開いてこられたお話はリアリティがあり、迫力がありました。またお話お聞かせください!
[Information]
tortoise general store
https://tortoiselife.com/

12701 - 12705 venice blvd., los angeles ca 90066
(310) 396-7335

regular store hours
tue – sat: 1 pm – 6 pm
sun: 12 pm – 5 pm
closed on monday

TGS online store:https://shop.tortoisegeneralstore.com/

Instagram:https://www.instagram.com/tortoisegeneralstore/
この記事をシェアする
RELATED ARTICLES
あわせて読みたい記事はこちらから